がん患者に病状や治療法を丁寧に説明する辻野佳世子放射線治療科長(右)=明石市北王子町、がんセンター
がん患者に病状や治療法を丁寧に説明する辻野佳世子放射線治療科長(右)=明石市北王子町、がんセンター

 身を乗り出して治療方針を聞く患者の後ろ姿は、胸を打つものがあった。

 兵庫県立で最大のがん治療専門病院、がんセンター(明石市)で7月17日、許可を得た患者数人の診察に立ち会った。

 「ここは兵庫県下でがん治療の最後の砦(とりで)」。乳がん患者の女性(50)は、手術も放射線治療もホルモン療法も、全て施した。自宅が病院に近くて「助かった」としつつ、「命がかかっている。もしこの病院が遠かったとしても通い続けると思う」と、センターの存在の大きさを力説した。

 がんは「治る時代」と言われる。だが、厚生労働省の2023年人口動態統計によると、死因の1位であることに変わりはない。24・3%を占め、4人に1人はがんで死ぬ。「治る」可能性があるからこそ、病院選びは重要になる。

 がんセンターは、24年度に2億8500万円の経常赤字を出した。赤字額自体は県病院局が直営する10病院の中で最も小さい。

兵庫県立がんセンター

 ただ問題は、27年度に現地での建て替えを控えていることだ。資材の高騰などを受け、事業費は当初予定から8割増の428億円に。増えた190億円は加古川医療センターの整備費(183億円)に相当する。

 23年度の病床使用率は69・2%。改善に努めた24年度でも78・9%だった。26年度から45床を休止し、建て替え時にはその病床数で開院する。

 がん治療を掲げる総合病院が増えた今、はたして「がん」を名前に冠した専門病院に将来性はあるのか。

 「がんの専門病院はこれからも必要だ」。富永正寛院長は言い切った。「老朽化した当院の周辺にきれいな病院が次々にでき、患者が離れたが、患者数は今がボトム(底)と思っている」。自信の背景には、建て替えのメリット以上に、がん医療体制のシフトチェンジがある。

 キーワードは「集約化」だ。

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■老朽化、建て替えで巨額投資

 国民病とも呼ばれるがんは、医療の地域格差をなくす「均てん化」が全国的に進められてきた。その結果、専門病院であるがんセンターの優位性が低下し、収支は厳しくなっていった。