定例会見で話す兵庫県の斎藤元彦知事=18日午後、県庁
定例会見で話す兵庫県の斎藤元彦知事=18日午後、県庁

 兵庫県の斎藤元彦知事らへの告発文書問題で、告発者を特定、聴取した県の対応は公益通報者保護法に照らして「違法」と結論付けた第三者調査委員会の報告書公表から19日で1年となる。知事は「対応は適切だった」と反論を続ける一方、今年1月、公益通報制度の県要綱を改正し、外部通報の通報者保護を明記した。専門家は「制度の維持向上は事例を反省した先にある。適切の一点張りでは前進せず、実効性も確保されない」と要綱の形骸化を懸念する。

 第三者委は2024年9月に設置。元裁判官ら弁護士6人で構成し、100人を超える職員から情報提供を受けて証拠資料を集め、60人と面談して調べた。

 昨年3月19日に報告書を公表し、「出張先で公用車を降りて20メートル歩かされ、職員を怒鳴り散らした」など、文書に記載された知事のパワハラを10件認定。内容を調べずに文書の作成者を特定した斎藤知事らの対応は、公益通報者保護法違反に当たると指摘した。

 これに対して斎藤知事は直後から「違法性の認定では専門家でも意見が分かれる」と受け入れず、「誹謗中傷性が高い文書」との見解を今も変えていない。18日の定例会見でも「対応は適正、適切、適法だった」と従来の主張を堅持した。

 そうした中、県は今年1月に公益通報制度の県要綱を改正。これまで、報道機関などに対する外部通報(3号通報)は通報者の不利益な取り扱いを防ぐ「体制整備義務」の対象に明記していなかったが、3号通報を含む全ての公益通報者を保護すると明確にした。

 要綱の改正について県は、告発者保護を強化する法改正を踏まえたためとするが、通報者探索の防止対象に3号通報も含む点は現行の法定指針の趣旨に基づく。昨年5月、消費者庁が全都道府県に通知した技術的助言にも沿っている。

 今年12月の改正法施行よりも1年近く早く要綱を改めた理由について、県政改革課は新たな法定指針案が固まったためと説明。文書問題の再検証は念頭になく、「見解はこれまでと変わらない」としている。

 公益通報制度に詳しい淑徳大学の日野勝吾教授は「新要綱の内容と時期を考えれば、改正法だけでなく文書問題を意識したと見るのが自然。第三者委の指摘を踏まえ、知事の反省の上で出来上がったかどうかが最も重要だ」と指摘する。

 日野教授は報告書を受け、知事が掲げた「風通しの良い職場づくり」に向けて昨年5月に県が開いた幹部研修で公益通報制度の講義を担当した。組織の不正をただして自浄作用を高める重要な制度で、「職員との信頼関係が前提になる」と知事らに伝えた。その後の状況に「制度だけを整えても、問題点が厳しく指摘された文書問題の反省がないままでは実効性は担保されない」と懸念を示す。

 地方自治に詳しい早稲田大学の小原隆治教授は「二元代表制は行政能率の向上と議会の腐敗監視のため首長に権限を集中させた仕組みで、首長の暴走は想定されていない」と指摘。「第三者委の報告書には法的拘束力はないが、ガバナンスの誤りをただす発言に貸す耳を持たない組織は並外れた忠誠心がない限り構成員が離脱し、衰退過程に入っていく。自治体の場合、職員の働きぶりのほか退職、採用試験の応募にも影響するリスクがある」と話している。

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 公益通報制度を担当する県政改革課によると、県の公益通報窓口に寄せられた職員からの通報件数は、文書問題発覚後に急増した24年度の45件に比べて25年度は今年2月末時点で28件と減少ペースだが、19件だった23年度よりは多い水準という。

 新要綱では利益相反の排除、受理不受理の判断も含めた外部専門家のモニタリングと運用状況の定期的な公表で「透明性を確保していきたい」としている。

告発文書問題】 2024年3月、兵庫県西播磨県民局長の男性が、斎藤元彦知事のパワハラ疑惑など7項目を告発する文書を関係者に送付。県の公益通報窓口にも通報したが、県は公益通報者保護法の対象外と判断し、内部調査で誹謗(ひぼう)中傷と認定、停職3カ月の懲戒処分とした。しかし調査の中立性を疑う声が相次ぎ、斎藤知事は第三者委員会を設置。県議会も強い調査権限を持つ百条委員会を設置した。元局長は調査途中の7月に死去。斎藤知事は9月、県議会の不信任決議を受けて失職し、11月の知事選で再選された。知事選では百条委員への中傷も横行し、議員辞職した元県議が25年1月に死去。告発文書の内容を調べた第三者委は同3月19日、斎藤知事のパワハラを認定し、県の対応を「公益通報者保護法違反」とする報告書を公表した。