今年6月、世界最高齢でヨットによる太平洋単独無寄港横断を達成した海洋冒険家堀江謙一さん(83)が、神戸新聞社の単独インタビューに応じた。兵庫県西宮市に帰港した姿は、出発前よりも日焼けし、白髪も日に焼けて少し金色に見えた。冒険の詳細は各報道やホームページで公開されてきたが、改めて69日間の軌跡を聞いた。(村上貴浩)
■嵐で船酔い「まあ大変」
新型コロナウイルス禍での冒険は、出発前からいくつもの壁があった。正式な出国手続きを取らず、こっそりと出航した60年前の初冒険と、感覚は少し似ていたという。
「今回は完成したヨットをアメリカ・サンフランシスコに運ぶのに時間がかかったし、当時は現地の港でストライキが起きているという話も聞いた」「自分が飛行機で現地に向かうためにも、ワクチンを打ったりPCR検査も受けたりと、一つダメになったら全てがパーになることばかりで、ハラハラした」
数々の嵐を乗り切ってきた堀江さんもコロナ禍は未知の災害だった。少し声のトーンが上がり、身を乗り出して言った。
「それでも多くの人たちの支援で全て乗り越えられて感心した。何よりうれしかった」
サンフランシスコを出航した直後には嵐に見舞われたが、堀江さんにとって海はホームグラウンドだ。
「風速は30ノット(秒速約13メートル)ぐらいで、揺れると言うより波が船体にぶつかり続けるような感じ。船酔いもしていて、食欲もしばらくなかった」「体がまだ船に慣れていない状態だったこともあって、まあ大変でした。それでもこれまでの嵐に比べるとそこまでではなかったですね」
嵐を乗り越えてからは順調な航海だった。どんどんとスピードを上げ、日本へ向けて時速9キロ前後をキープし、予定より約1週間早くハワイ沖を通過した。
「嵐の後には貿易風をつかんだ感覚があった。貿易風は1級品の風。他の風とは比べものにならないぐらい上等なんです。もちろんいろんな方角に吹くが、非常に安定していて帆が受けるには最高」
■体洗うのは命懸け
途中にはアマチュア無線局も開局し、計270局と交信。中でも小野市の男性とは何度も交信を続けており、今回もずばぬけて電波が強かったという。
「あの人は別格。アマチュア無線は交信する場所が重要で、そのために引っ越す人もいる。相当良い場所に住んでいるんだと思う。通信した人たちとは電波強度を確認しあって、確認が取れれば『交信証』を送り合う。なので僕はだいたい300件は送ります」
体を洗ったのは6回ほど。命綱を付けてバケツで海水をくみ、頭はブラシで洗う。船内で自身を撮影した動画には、青空の下、険しげな顔で頭を洗う姿が映っていた。波で船体が激しく揺れている。
「体を洗うのは真剣そのものです。早く片付けないと海に落ちる可能性もある。いろんな人に海水で洗ってべたつかないのかと聞かれるけど、ものすごくさっぱりする。やってみたら分かります。タオルは持って行っているけど、風と太陽ですぐ乾く」
出発前、「特別なトレーニングはしていない」と話した堀江さん。しかし、肩や腕の筋肉は80代とは思えないほど隆起している。
「本当に何もしていない。普通です。バケツが大きくて重かったので失敗したなと思ったぐらいだから」
■黒潮を相手に右往左往
日本に近づいた時の強敵は黒潮だった。大きな川を横切るような感覚というが、少しでも気を抜けば進路が変わってしまう。
「ちゃんと操縦していれば(黒潮の上でも)前進する。でも今回は寝ずに航海していた時もあるぐらい苦戦した」「途中で風が安定した時に『これは(このまま)いけるな』と思って一休みしたら、進路が1回転していたこともあった」
紀伊水道上に設定したゴールライン直前でも、風に振り回された。
「あと3時間ほどでゴールできるというタイミングで突然、北風が吹いてきて全く前に進まなくなった。帆を小さくして対応したが、この船に風の中を切り上がっていくパワーがあるかどうか不安だった。いざ挑戦してみると『よく進むな』という感覚。今回は船に助けられた部分が大きかった」
ゴール直後も、すぐに喜べる状況ではなかった。
「ゴールラインを越えた時、近くの船から合図の汽笛が聞こえた。『本当にゴールか?』と思ったけど、スマホもつながらなくて、すぐに確認が取れなかった。結局、衛星電話とGPS(衛星利用測位システム)で確認するのに30分ほどかかって、ゴールしているのにずっと作業をしていた」
「結局、スタッフと連絡がつながって『さっきの汽笛は(ゴールの合図で)合ってるんやね』と確認した。家族にも電話したが、時間が午前2時だったので出なかった」
「迎えの船も来ていなくて『いつ来るねん』と思っていた。帆は畳んでいたが、風も強いし周囲には四国と和歌山の陸があるので、近づかないよう気を張って数時間待機していた」
■子どもの声が励みに
到着後はセレモニーと会見で大勢の報道陣と観客に囲まれ、妻も来ていた。
「妻から(ねぎらいの言葉など)そんなんないですね。『写真を撮られるのが嫌だからあっちに行って』と言われた。妻もヨットに乗るし、詳しいので、黒潮を乗り越えたときには安心していましたけど」
今回、神戸新聞を介して地元の子どもたちから質問を受けてやりとりし、応援メッセージを受けてきた。
「子どもたちの声は本当に励みになった。それに今回の企画で1人でもヨットや海に興味を持ってくれる子がいるとうれしい」
堀江さんは常に自身を「冒険家」ではなく、あくまで「単なるヨットマン」と言い続けている。
「一つの海を渡るということは何があるか分からない。だから冒険的なところはある。ただ、自分で冒険家と言うのは気恥ずかしい」「最高齢での達成はうれしかった。最年少と最年長の記録を達成できる位置に自分がいることは分かっていたので。ただ、記録のための冒険ではないです」
会見後はすぐにシャワールームに走った。
「ヨットハーバーでシャワーを浴びて、陸に帰ってきた感覚があった」
さっぱりした後には、唐揚げとビールで祝杯を挙げたという。
【バックナンバー】
【洋上通信14】「夢をありがとう」 祝福の声続々届く
【洋上通信13】黒潮を越え、ゴール目前
【洋上通信12】ゴールまで150キロ、近づく旅の終わり
【洋上通信11】西風と黒潮で思うよう進めず
【洋上通信10】風と波に振り回された1週間
【洋上通信9】ラッキー。サンマの缶詰発見
【洋上通信8】良い風、1週間早く航程6割到達
【洋上通信7】日付変更線を通過
【洋上通信6】命綱付けてシャンプー
【洋上通信5】オアフ島沖合1・5マイルを通過
【洋上通信4】アマチュア無線局開局
【洋上通信3】夜の海に映る星空
【洋上通信2】ハワイまで1300マイルの所に
【洋上通信1】いきなり嵐 その後は順調
【下】海を切り開いた先達に今も憧れ
【中】洋上での生活あくまで自然体
【上】チャレンジ精神マグマのよう
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