歴史の目撃者になりかけた。4月中旬に大阪であったフィギュアスケートの世界国別対抗戦。エキシビションに向けた公式練習で、羽生結弦(ANA)が前人未到の4回転半ジャンプに挑んだ。国内の競技会場では初披露となり、記者も色めき立った。
12度挑み、6度は回転が抜け、6度転倒した。成功はならなかったが、ただジャンプを繰り返すのではなく、フリー曲の動きで踏み切った。「試合の場所でやることに意義があると思った」。来季こそプログラムに組み込む決意の表れだった。
翌日、今季を締めくくる会見の中で、羽生の言葉が耳に残った。「それぞれがコロナに立ち向かっていかなくてはいけない。僕の4A(4回転半)じゃないですけど…」
コロナ禍で葛藤を抱えながら「誰かの光になれるように」と出場を決めた羽生。競技人生の「最終目標」と公言する超大技への挑戦からも、同じような願いを感じた。苦難と闘う人たちに、高い壁を乗り越える姿を届けたい-。圧巻の演技とはまた違う、がむしゃらさが伝わる12本のチャレンジだった。(山本哲志)