身長143センチの小柄なヒロインが、歴史をつくった。3日の東京パラリンピック車いすテニス女子シングルスで準優勝した上地結衣(27)=三井住友銀行、兵庫県明石市出身。1992年バルセロナ大会以降、銀メダル以上を独占してきたオランダ勢の一角を崩した。「金が欲しかった。でも、自分ができることはやり切った」と涙した。
生まれつき脊椎に障害があり、成長とともに体重を下半身が支えられなくなった。「なんで自分は歩けなくなるんやろ」。周囲との差を感じ、家にこもるようになった小学4年生の娘に、母芳美さん(55)は障害者スポーツを勧めた。元々活発な少女がのめり込んだのが車いすテニスだった。
負けず嫌いで物おじしない性格。芳美さんも「親は先に死ぬ。その時に困らないように」と特別扱いはしなかった。大久保中3年で初の海外遠征。車いすテニス協会からは親の付き添いを求められたが、上地は「一緒ならお金が倍かかる。5回しか行けない遠征が、1人だったら10回行ける」と単身旅立った。
明石商高に進むと、家から電車とバスを乗り継いで通った。「雨の日以外は送り迎えしない約束」(芳美さん)。3年間、母には一度も頼まなかった。
高校3年で初出場した2012年のロンドン大会で引退するつもりだった。最高峰の熱気にみせられ、国枝慎吾(ユニクロ)の金メダルを間近で見て、思いは変わった。その後の飛躍は目覚ましい。リオデジャネイロ大会で銅メダル。シングルスの四大大会で通算8勝を重ねた。
新型コロナウイルス禍で試合がなくなり、東京パラは延期されたが、「できないことを数えるより、楽しめるように工夫しよう」。障害を乗り越え、自立心を育んできた上地はめげない。戦術を練り直し、筋トレに励んだ。再び海外を転戦する日々に備え、通信制でアスリートフードマイスターの資格を取って体づくりに生かした。
最後は屈したが、ベスト8、銅、銀と一歩ずつ上がってきたパラの階段。夢は3年後のパリでかなえる。(山本哲志)
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