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「サッカー好きだけど忘れる時間も必要だった」 病と闘う元なでしこ、復活への歩み

2022/02/27 18:00

 病と闘いながら、再びピッチに立とうと前を向くプロサッカー選手がいます。女子の日本代表「なでしこジャパン」にも選ばれた経験があるINAC神戸のFW京川舞さん(28)。甲状腺ホルモンが過剰に分泌され、身体にさまざまな不調が起こるバセドー病を発症し、「サッカーが好きだけど、忘れる時間も必要だった」と振り返ります。2月18日に練習復帰を果たしたばかり。これまでの道のりをたどりました。(尾藤央一)

■異変は1年前「貧血かな」

 体の異変を初めて感じたのは、1年前でした。新シーズンに備えて芦屋浜(兵庫県芦屋市)で自主練習を行っていた2021年1月末、「1本ダッシュをしたらすぐに気持ち悪くなる。貧血かな」と思ったそうです。

 京川さんは息切れし、疲れやすくなったと感じていました。新陳代謝が異常に活発になり「周りが長袖なのに自分だけ半袖。みんなに心配されたけど、暑いから大丈夫と答えていた」。INAC神戸の練習が本格化した2月以降も症状は改善せず、体力測定で心拍数や血圧の上昇、筋力の低下などが分かりました。4月に精密検査でバセドー病が判明し、5月に公表しました。

■「2カ月で復帰」自分を追い込んでいた

 昔から自らをストイックに追い込む「練習の虫」です。薬を服用して運動は控えるよう言われていましたが、「2カ月で復帰すると思い込んで、自分を追い込んでいた」と焦りました。

 京川さんには、ある思いがありました。「病気が理由でサッカーを辞める子もいたと聞いた。(その子らに)あきらめないで、またサッカーができるということを目指してほしい」。会員制交流サイト(SNS)では努めて前向きに日々をつづりました。

 グラウンドに出て仲間の練習をサポートする一方、脈拍を管理しながら筋力トレーニングにも取り組みました。京川さんは高校生ながら、日本代表に選ばれた逸材です。プロ1年目の2012年に左膝の半月板損傷、前十字靱帯(じんたい)断裂の大けがを負うなど、これまでもアクシデントに見舞われるたび、エネルギーに変えてきました。

 ですが、バセドー病については「いつ治るんだろうと思うと落ち込み、ストレスも抱えていたと思う」と、終わりが見えないつらさを感じていました。周囲から「どれくらいの期間で治るの」と聞かれることも多々あります。気に掛けてくれることには感謝しつつも、心はざわつき、イライラをぶつけてしまうこともありました。

■病気との向き合い方、高校生との練習

 このままではいけないと思っていた京川さん。プロリーグ「WEリーグ」が開幕する直前の8月には神戸を離れて茨城県の実家に帰省することになり、「頭がパンパンになった状況からクリアになれた。社長、監督、コーチからゆっくりしていいよと言われたことも大きかった」と精神的に楽になったそうです。同じ病気を抱える人の経験談を聞き、医師と意思疎通を図ることで病気との向き合い方を見直しました。

 「前を向ける」と感じるようになるまで半年以上が経過していました。状態が安定し、運動制限がなくなった11月には、まず走る練習の強度を上げました。体調と相談しながらメニューを自ら考え、練習場近くの公園で黙々とダッシュを繰り返しました。

 後輩の東京五輪日本代表MF杉田妃和(ひな)選手(25)も復帰を手伝ってくれました。今年に入ってからはINAC神戸の下部組織の中高生らの練習に交じって、ボールも蹴られるように。「けがじゃないから足の感覚も鈍っていなかった」。高校生らのチームで出場した紅白戦でゴールを奪うなどし、ついに首脳陣が「戦力」として復帰を認めてくれました。

■症状抱えながら「またここから」

 2月18日、10カ月ぶりにINAC神戸の全体練習に参加しました。常に得点を狙い、同じポジションの後輩と意見をぶつけることもためらいません。練習終了後もグラウンドに残って課題に取り組む姿は、病気になる前と何ら変わりませんでした。

 今はサッカーができるぐらいに症状が落ち着いていますが、定期健診と服薬が必要で悪化する恐れもあります。「またここからだな」というのが今の率直な気持ちだそうです。

 3月5日には中断していたWEリーグが再開します。INAC神戸は11試合を残して首位を走る強豪です。「WEリーグで復帰できるように。ファンの人たちがまた見にいきたいと思ってもらえるように」。京川さんは強い思いを胸に、一歩ずつ前に進んでいます。

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