「ドラゴンボール DAIMA」より<(C)バード・スタジオ/集英社・東映アニメーション>
 「ドラゴンボール DAIMA」より<(C)バード・スタジオ/集英社・東映アニメーション>

 日本を代表するアニメで、全世界にファンが広がる「ドラゴンボール」シリーズ。原作漫画の連載開始から40年を迎え、ファン待望の新作「ドラゴンボールDAIMA」(フジテレビ系、金曜深夜)が放送されている。なぜ今作が作られたのか、制作の裏側は? エグゼクティブ・プロデューサーの伊能昭夫(いよく・あきお)に話を聞いた。

【目次】

(1)知らない人でも分かるように

(2)ストーリーにこだわり

(3)もう一回見てもらえたら

【ドラゴンボールDAIMA】

 魔人ゴマーの陰謀により、主人公の悟空と仲間たちは皆、子どもの姿になってしまう。悟空は連れ去られた仲間を救い、元の姿に戻るため、大魔界へと旅立つ。

(1)知らない人でも分かるように

 記者 この企画が立ち上がった経緯を教えてください。

 伊能 以前「ドラゴンボール超 スーパーヒーロー」という映画を作っていた時に、ちょっと違う形で新たなオリジナルのものをやってみてはどうだろう、と原作者の鳥山明先生に提案をし始めました。そこから6年ほどかかっていますね。

 提案をしていった中で、鳥山先生がやる気になって、お話をすべて作っていただいて、その上、キャラクターデザインももちろん、メカニック、世界観も含めて、本当に先生自身が(生前に)全て作ったというような作品になりました。今までで一番関わってもらった感じがします。違う世界に行って、いろいろ回ってみたいな、そんな雰囲気が先生自身も楽しかったんだと思います。キャラクターがみんな小さくなっていますが、ああいったデザインも、これはこれで面白いと感じていただければ。

 記者 キャラクターが小さくなったことには何か意図はあるんですか。

 伊能 (悟空が小さくなった)「ドラゴンボールGT」の放送が30年ほど前で、見ていた人たちが親になっている。原作が40周年を迎える中で、(見ていた人たちの)お子さんも見ています。原作を(リアルタイムで)読んでいたのと違う世代が入ってきたのがGT。今のタイミングだとGTを見ていた人も結構いるので、それはちょっと意識しました。GTの時のイメージを置きながら何ができるかと考えた時に、小さくなるというのが一つあって、そこは初めの企画の段階で、鳥山先生にも提示していました。

 記者 子どもを意識して作ったところもあるのでしょうか。

 伊能 ある程度傾向と対策を練りながら、この層を狙っていくぞと、きめ細かく狙うと作品がおかしくなるのでやらないですし、子ども向けに作りましょうという発想もないです。ただ今回はたくさんの人に見てほしかったので、お子さんが見ても面白いとか、親からしても見せてもいいと思うとか、そういうのは意識はしてはいます。

 「世界中で見てほしい」というのが、一番初めの企画のコンセプトです。今は全世界で配信中心に展開しています。良かったと思うのは、動画配信サービスの中にはキッズジャンルの順位が出るものがあって、今作はキッズのランキングがとても高いんですよ。それは本当に良かったです。子どもさんが見ているかどうかは意外に分かりにくいのですが、視覚化できたのが良かったなと思います。

 記者 1話では、これまでのドラゴンボールの世界観を紹介するような内容がありました。

 伊能 ドラゴンボールはみんな知ってるでしょみたいな感じになりがちですが、よく考えたら、原作のドラゴンボールに触れていない人もいるので、今作は(過去作を)知らなくても分かるように始めようということで、ああいう作り方をしています。戦いを振り返ったりもするし、あらすじみたいなものを冒頭につけたりして、入りやすくしています。

 記者 連載開始から40周年という節目でこのような作品を公開することをどう感じていますか。

 伊能 順番としては40周年だから作ったわけではないですが、ちょうど節目に出せたのはとても良かったです。長く続いてすごいなということもありつつ、次はこれをやろう、次はこれをやろう、と準備していって結局ここに至っていると実感します。狙って、やるぞ、というのは意外にうまくいかなくて、なんかこういうのやりたいよねって準備したら、結果的に今回は40周年にはまったという感じです。

(2)ストーリーにこだわり

 記者 今作で、最近のトレンドを意識したところはありますか。

 伊能 今のアニメの見方は40年前とは全然違っています。(以前は)テレビ放送が主体で、みんながリアルタイムで見るという、ほぼその手段しかなかったと思いますが、今は配信サービスが広がっているのが一つ目。もう一つは、日本にいると分かりにくいですが、今は全世界にほぼ同時に広がります。その広がりの違う2軸はすごく意識はします。

 だから、テレビでだけではなく配信で見ていて、配信の場合は振り返って視聴ができるというのもあり、入り口をやっぱり放送の初回タイミングじゃないところにも用意しないといけない。まだまだ間に合うと。ここは今作でいうと、ちょうど年末年始を挟んでいるので、例えば年末年始時間があるからもう一回、はじめから見られると。

 それによって、視聴者数がどんどん増えていくので、その点では、見せ方はすごく大事だと思います。

 クオリティーに関しては、ある程度当たり前にないとダメだと分かっているので、時間をかけて準備することが必要でした。アニメはシーズンごとに新しいものがどんどん始まるので、そこの中でみんなが見るアニメだよねっていう認識をつけてもらうっていうのも必要な要素にはなっています。話題にならなかったり、1話を見なかったらもう見なかったりするので、そこのシビアさを今はすごく感じています。どんな作品でも、ドラゴンボールであっても、そこはみんな大変な思いをしていると思います。

 記者 アクションシーンは高いクオリティーが確保されています。

 伊能 アクションはドラゴンボールの強みなので、東映アニメーションさんにはそこは一日の長があります。いきなりアクションシーンをやりなさいと言っても、難しいです。アクションは演出の仕方を含めて、伝統芸のようですが、それがどんどん進化しています。アクションシーンは絶対他の作品ではできない、負けないものを作れるように、もっともっとできると言っています。

 縦横無尽に空中を飛び回るキャラクターが戦う作品は意外にもあまりないです。空中で戦うのは表現が難しいし、作るのも難しいかもしれない。バトルアクションものは他にたくさん出てきますが、地に足がついた状態ですごい技を繰り出すっていうのがベースになっています。ドラゴンボールはキャラクターがみんな飛んでいるので、あれはすごく強みだと思います。

 記者 今作は、鳥山さんはどの辺に特にこだわっていたのでしょうか。

 伊能 先生の特徴で一番初めに挙げられるのは、おそらく絵だと思うんですけれども、すごく唯一無二の絵なんですが、実はお話作りに対してのこだわりがかなり強くあります。

 今回はいつのタイミングでどういう形でやるかを決めないで始めていたので、何度も何度もやりとりをして、追加修正を加えながらやっていました。お話作りでどれだけ時間をかけたんだ、というぐらいやっています。

 やっぱりベースがしっかりしていないと、いくら頑張っても、いくらキャラクターでこいつすごくいいな、というのが出たとしても、やっぱり難しいと思います。制作の仕方として、お話を作りながら出てくるキャラクターのキャラクター像やビジュアルを、後に考えているんだろうなという感じがしたので、やはりストーリー作りが一番力が入っていたという印象があります。

(3)もう一回見てもらえたら

 記者 大魔界の設定も鳥山先生が考えたのでしょうか。

 伊能 魔界を舞台にするというのも、初めから決まっていたわけではないです。設定は、作品上で出ている部分がありつつ、全部出すわけではないですが、こういう作りになっているという世界の図などもあります。私が一番お気に入りのワープさまというメカ、移動手段にあんな金魚メカを使うという発想はすごいなと思います。

 ワープさまがいて、どうやって移動するかみたいな設定や、メカの構造、飛行機なども全部先生が作られています。

 記者 キャラクターのこだわりはありましたか。

 伊能 今作は、基本はドラゴンボール世界の話で、その世界の中の新しい設定が出てきています。その中の大きな一つは、魔界の住人は耳がとがっていると。人型ともちょっと違う、多少変わった人型というか、キャラクターが登場しているんですね。

 例えば、ハイビスという変わったキャラクターは、結構作るのが難しくて、人間そのままではないので。第3魔界のカダン王、パンジのお父さんも、ちょっと変わったキャラクターデザインみたいなものが随所にあって、そこにすごいこだわりを持っていました。

 先生はモブキャラクターがすごく大好きでいらっしゃったので、いろんな人が住んでいると描いていました。酒場にいるゴロツキとかも、一体一体が愛らしい存在なんだと思って見てほしいです。

 パンジ、グロリオっていうメインキャラクターも、何度か修正を加えて、今の最終的な形になりました。パーティーとしては良いバランスになったような気がします。

 記者 仲間が増えていくような、ゲームみたいなストーリーですね。

 伊能 冒険をして新しい世界に行く、新しい人と出会う、それが今回の冒険の楽しさなのかなと作っていったら、そういう風になりましたね。

 記者 ドラゴンボールの魅力を伊能さんはどこに感じていますか。

 今回の魔界もそうですが、全部がファンタジーの世界なんです。地球とは言ってはいますけど。他の作品だと、すごく現実に近い側面があって、例えば学生として日常を送っていたら、すごい力を得て戦っていくというパターンが多いと思いますが、ドラゴンボールは、完結した世界が作られています。今回も魔界の話を聞いてすごいなと思ったんですよ。宇宙もつくっているし、魔界もあるし、天界もあるし、地獄もある。それが日常にあるものをベースにしている作品とちょっと違う。

 完結したワールドをつくっているから、尽きないというか、ストーリーとしては触れてはいないけれども、こういう世界観があるよねっていうのがなんとなくあって、そこはどうなっているんだろうという想像の余地もあるし、現実をモチーフにして作られているわけではないから、実は想像したものと違っていてすごいということもあって、そういう繰り返しをしているのかなと。

 キャラクターも、人間、地球人がいますけど一握りで、それ以外はもうほぼ宇宙人と。それだと何が起こるかというと、考えていることや行動原理が同じじゃないんですよね、自分たちが考えるものと。だからすごく、おおっと思ったり、感情が揺さぶられたりしてしまう。全部がちゃんと作られている、本当に作られているものだというのが、すごいと思います。そこがみんなが夢中になる要素だと思います。

 全部が想像力のもとにつくられた世界っていうのは、実はあんまりないんですよね。エンタメ全体としても。ベースに何かを置いた方が理解しやすいから、設定として用意してしまうんですね。

 記者 今作のクライマックスの見どころは。

 伊能 ドラゴンボールには、いろんな期待感が新作にあり、アクションシーンに対しての期待感が高いのは重々承知しています。しっかりとしたアクションシーンとバトル展開を用意しているので、そこは期待に沿うものになっているんじゃないかなというのが一つです。

 もう一つはストーリーが今回は事前にどんな話になるか分からないままみんな見てるんで、最後どうなるんだとか、こいつ悪いやつなの、いいやつなのとか、そういう想像をして、特に新キャラはどんなやつなのかを見ながら、最後まで追いかけてほしいかな。

 とにかくまだ間に合うので、一から見てほしいですね。クライマックスの前に、もう一回始めから見てもらえたら、後から見たら分かることがたくさんあると思います。

(文・写真 共同通信 高坂真喜子)