福田川沿いのシイタケ。落ち葉に交じりながら、あちこちに落ちている=11月17日、神戸市垂水区御霊町
福田川沿いのシイタケ。落ち葉に交じりながら、あちこちに落ちている=11月17日、神戸市垂水区御霊町

 神戸市垂水区の市街地を流れる福田川に大量のシイタケが流れ着いている-。そんな耳を疑うような情報が、神戸新聞の双方向型報道「スクープラボ」に寄せられた。さっそく足を運ぶと、岸辺のそこかしこにしわしわのシイタケが張り付いている。福田川で何が起こっているのか。(尾仲由莉)

 取材に取りかかったのは11月中旬。福田川を管理する兵庫県神戸土木事務所に問い合わせると、担当者に驚かれた。「雨が降った後の流木の情報はありますが、シイタケというのは…」

 垂水区役所の地域協働課にも聞いてみたが、同様に把握しておらず、反応も薄い。食いついてきたのが、垂水署だった。広報担当の幹部に「え、シイタケ?」と聞き返され、詳しい情報を求められた。

 その後、実際に署員が現地を訪ねて状況を確認したらしい。通報なども洗い直し、シイタケを運ぶ車両の事故など関連をうかがわせる事案がなかったかを精査。手掛かりはなかったが、引き続き注視するという。

 官公庁も知らなかった謎のシイタケ。だが、周辺住民の間では、1カ月ほど前から話題になっていた。

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 「何でシイタケが?」

 福田川沿いで植物専門店を営む岩瀬勲さん(57)が、岸辺で見つけたのは10月7日。河口にほど近い川原橋から鳥や魚を撮影する日課の中で気付いたそうだ。

 2日後には、水面に浮かんでいるのを発見。10月20日には「おびただしいシイタケ」と表現するほど数が増えていた。

 「橋から上流を見たら、両岸に沿って列をなすように40個から50個浮かんでいて。下流に流れていったものも含めたら、200個、300個はあったのでは」

 その後、川面のシイタケは徐々に減少。代わりに、水位の変化で岸に残されたとみられるシイタケが目に付くようになった。岩瀬さんが土手に下りて拾い上げ、ちぎって確かめると、乾燥シイタケではなく、生シイタケのようだ。

 そこで川原橋から上流へ。すると、約650メートル先の瑞穂橋を境に、ぱったりと見かけなくなったという。

 瑞穂橋が、謎を解く鍵のようだ。岩瀬さんが「個人的な見解」とした上で推し量る。「誰かがどこかから持ってきて捨てたのかな」

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 岩瀬さんへの取材と前後して、実際に福田川を訪ねてみた。水面に浮かぶシイタケは確認できず、川原橋から岸辺に下りてみる。

 右岸を上流へ350メートルほど歩き、左岸を引き返す。往復30分ほどの間に、少なくとも30個見つけた。水際に張り付き、黒く光るその様はムール貝のようだ。

 写真を撮っていると、かばんを持った女性が「保健所の方ですか」と声をかけてきた。謎のシイタケは気味が悪く、家族で話題になったという。「変だし、なぜなのかを知りたくて」

 うわさは近隣にも広がり、川沿いで清掃活動を続ける福田川クリーンクラブの村上健一郎会長(64)も把握していたが、原因は知らなかった。カサの直径が10センチほどのものもあったそうで「立派なシイタケなのに、もったいないねえ」。

 では、識者からヒントを得られないか。専門家をたどって行き着いたのが、鳥取市の「日本きのこセンター菌蕈(きんじん)研究所」。長谷部公三郎所長(74)が、ざっくばらんに対応してくれた。

 「生シイタケは原木栽培と菌床(きんしょう)栽培があるんですよ。森や山で育てる原木の収穫期は春と秋ですが、春が年間の収穫量の9割を占めます。菌床は人工栽培で、旬はないんじゃないかな」。つまり、農家が秋に採れすぎたから捨てた、という説は考えにくいらしい。

 シイタケの謎については、独特の持論を展開。「そもそも、生シイタケって浮くんですかね。『桃太郎』みたいな話だなあ。ひょっとしたら、違法な品物を運ぶカモフラージュにシイタケが使われて、不要になったとか…」

 取材を進めれば進めるほど謎が深まる。大好きな鍋料理にシイタケが入っているたびに、岸辺に張り付くあの姿を思い出しそうだ。

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