社会保障財政の要となる診療と介護、障害福祉の3報酬の改定率が決まった。今年は6年に1度の同時改定となった。
医療や介護従事者の給与を引き上げつつ、社会保障費全体は抑制して現役世代の保険料負担を減らす。相反する課題への対応が求められたが、岸田文雄首相の裁定は踏み込み不足と言わざるを得ない。
2年に1度改定される診療報酬は、人件費などに充てる「本体部分」を0・88%引き上げる一方、薬の公定価格である薬価を1%引き下げ、全体では0・12%のマイナスとした。しかし、圧縮効果は高齢化による社会保障費の自然増にはるかに及ばず、首相が掲げる少子化対策の財源捻出には程遠い。
診療報酬の配分を巡る協議では、財務省が当初、診療所の報酬単価を5・5%程度引き下げるよう求めた。2022年度の病院の利益率が6・7%赤字だったのに対し、診療所は8・3%黒字だったからだ。全体の引き上げを主張する日本医師会など関係団体は猛反発し、施設の種別ごとの設定は見送られた。
来年4月からは医師の働き方改革が始まる。救急や出産を支える病院の過酷な勤務状況を改善するには診療所の初診、再診料などを引き下げて、病院の人員確保と環境整備に回す必要があった。首相が思い切った裁定を下すべきではなかったか。
診療報酬の全体は、薬価の1%引き下げでかろうじてマイナスとした。特許が切れた先発医薬品について、24年10月以降は安価な後発品(ジェネリック医薬品)との差額の25%を患者負担とする。後発薬の利用を促し、医療費を抑える狙いだ。
近年は後発薬メーカーの不祥事による操業停止が相次ぎ、供給力が落ち込んで生活に身近な薬の不足を招いている。後発薬に誘導すればさらに拍車がかからないか、慎重に見極めねばならない。
一方、3年に1度改定される介護と障害福祉の報酬は、それぞれ1・59%、1・12%引き上げる。だが、業界の深刻な人手不足を立て直せるかは見通せない。
介護従事者の数は、離職する人が働き始める人を初めて上回った。政府は24年度に2・5%、25年度に2%の賃上げを図るが、他業種との格差は残る。訪問介護事業所の倒産が最多を記録するなど高齢者施設の経営悪化も深刻さを増しており、働きやすい環境整備は急務だ。
団塊の世代が全て75歳以上になり社会保障費が急増する「2025年問題」への対応も今回の報酬改定の課題だった。首相は社会保障財政の持続性を高めるため、めりはりをつけて支出を見直す必要がある。
























