米軍普天間飛行場(沖縄県宜野湾市)の名護市辺野古移設に向け、政府が今月、軟弱地盤がある大浦湾側の工事に着手した。県が地盤改良の設計変更を承認せず、斉藤鉄夫国土交通相が代執行に踏み切っていた。
28日に林芳正官房長官と沖縄県庁で会談した玉城デニー知事は「新基地建設に反対する民意を受け止め、埋め立て工事を中断するようお願いする」と求めた。しかし林官房長官は従来の方針を崩さなかった。県との協議を後回しにし、強硬な手段を選んだ政府の姿勢は許容できない。
国が提訴した代執行訴訟で、福岡高裁那覇支部は昨年12月、国側勝訴の判決を言い渡した。ただし同支部は、国と県の対話による問題の解決が望ましいと付言した。国と地方は本来「対等・協力」の関係であり、前例のない代執行には疑問が残る。強引な着工は、国と県の対話の糸口を遠のかせるものでしかない。
沖縄県が移設に反対するのは、民意のみが理由ではない。大浦湾の軟弱地盤は最深で海面から約90メートルもあり、地盤改良には、砂を固めたくい約7万本を深さ70メートルまで打ち込む必要がある。埋め立てても地盤沈下すると指摘する専門家もいる。完成が十分に見通せない難工事に、県が異議を唱えるのは理解できる。
埋め立てに沖縄戦の激戦地の土砂を使う計画も看過できない。今なお2千柱を超す遺骨が見つかっておらず、土に交じる。全国230以上の地方議会が遺骨土砂投入に反対する意見書を採択している。
また今月、米映画監督オリバー・ストーン氏ら各国の識者ら400人以上が移設反対の声明を出した。沖縄が事実上の軍事植民地にされていると厳しく批判している。辺野古の問題は世界から注視されていると政府は自覚してもらいたい。
市街地に囲まれた普天間飛行場の返還合意から、今年で28年になる。辺野古の工事には今から9年3カ月を要し、供用開始は早くても2030年代半ば以降とされる。
昨年11月、鹿児島県・屋久島沖で米軍の輸送機オスプレイが墜落した事故は、同系機種が配備されている普天間の危険性を改めて浮き彫りにした。林官房長官は玉城知事に、政府と県、宜野湾市による普天間飛行場負担軽減推進会議の作業部会を開く方向で調整すると伝えた。
政府は「移設が唯一の解決策」と繰り返すのではなく、米国と協議して早期返還の方法を模索すべきだ。
着工後、岸田文雄首相は「丁寧な説明を続けていきたい」と述べた。それを実行するには、米軍基地が集中する沖縄の現実に思いを寄せ、いったん工事を中断して、玉城知事との話し合いの席に着くしかない。
























