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 社会保障や公共事業などの政策経費が税収でどれだけ賄えているかを示す国と地方の基礎的財政収支(プライマリーバランス=PB)が、2025年度に8千億円程度の黒字になるとの試算を内閣府が示した。

 黒字化が実現すれば1991年度以来となる。92年度に赤字に転落し、政府は02年に黒字化の目標を掲げたが、30年以上好転しなかった。税収で経費を賄えず、国債頼みの予算編成が常態化した結果、1千兆円を超す債務の山を築いた。

 試算は政府が黒字への努力を重ねたというより楽観的な前提に基づくもので、実現するかは見通せない。

 各省庁や自治体による25年度予算案の編成はこれから本格化する。「黒字なら使えばよい」とばかりに支出を増やせば試算は崩れ、さらに債務を膨らませるだけだ。目先の税収増を当て込まず、費用対効果の乏しい政策を見直すなど歳出の絞り込みに大胆に踏み込む必要がある。

 内閣府は25年度のPBについて、今年1月の段階では経済が高成長でも赤字になると見込んでいた。一転したのは23年度の税収が当初見積もりを2・5兆円も上回ったからだ。

 25年度も同様に、物価高や堅調な企業業績で税収が伸びると見込み、PB黒字化のそろばんをはじいた。しかし企業経営のプラス要因だった低金利や円安傾向が変化しつつある現状では、皮算用の域を出ない。

 PBの赤字が繰り返されてきた要因の一つに、毎年のように編成される補正予算がある。短期間で編成され国会などのチェックが利きにくく、規模が膨らみがちになる。

 衆院の任期満了を来年10月に控え、解散総選挙も取りざたされる中、政府、与党が物価高対策などと銘打ってさらに大型補正予算を組む動きも想定される。予算執行が25年度に持ち越されれば、黒字化はたちまち危うくなるだろう。

 留意すべきは、国債償還や利息の支払いに充てる利払い費はPBの算出に含まれない点だ。24年度予算の利払い費は9・6兆円に達し、金利上昇で25年度はさらに膨らむ可能性が高い。試算で見込む黒字分の8千億円を充てても焼け石に水であり、借金返済のために借金を重ねる構造を変えるのは容易ではない。

 債務削減に奇手妙手はない。単年度のPB黒字にとらわれず、巨額の借金を長期的に、着実に減らす具体策が重要だ。財政規律を重視する与党議員の中には、利払い費を含めた財政目標を求める声もあり、債務削減に対する政府の本気度を示す意味では一考に値する。

 政府は黒字の兆しが見えた今こそ、次世代の負担を軽減する財政方針を明確に打ち出さねばならない。