政府が2026年度の創設を目指す防災庁の概要が、6月に示される見通しだ。災害対応の司令塔機能を担う組織で、石破茂首相肝いりの政策である。首都圏に「本庁」、地方に「分局」を置く案が現実味を増し、兵庫県をはじめ自治体が誘致合戦を繰り広げている。
リスク分散の観点からも、地方に拠点を設ける意義は大きい。大規模災害で首都圏が被害を受ける事態を想定し、地方拠点が速やかに本庁機能を代替できるよう、人員配置や設備などソフトとハードの両面を整備する必要がある。
神戸新聞社は阪神・淡路大震災の経験を踏まえ、15年に防災省の創設を提言した。その後、全国知事会や関西広域連合も必要性を訴えてきた。
地方拠点の誘致には三木市も手を挙げている。ほかには福島市や、石川、新潟、岐阜などの各県が政府への働きかけを強める。国の出先機関ができれば雇用創出による経済効果が見込まれるとの期待もあるようだ。
防災庁に求められるのは、省庁縦割りの弊害を打破する役割である。首都直下地震や南海トラフ巨大地震に備え、地方拠点はバックアップ体制の構築や地域の防災力強化に取り組むことが重要だ。専門性と現場感覚を兼ね備えた組織を目指してもらいたい。
東京一極集中是正を目指し、23年に文化庁が京都市に移転した。しかし、国会対応や省庁間協議のために職員が完全に東京を離れられず、地方移転の動きは他省庁に広がらなかった。創設される防災庁で、霞が関での仕事に重点が置かれるあまり、地方拠点が軽んじられるような事態は避けねばならない。
災害時に被災地への支援を円滑に進めるには、国と地方の十分な意思疎通が不可欠だ。地方拠点では平時から自治体との連携に努め、地域課題を共有してほしい。人口減やインフラの老朽化といった地方の現状を、防災庁職員が肌で感じることにも意味はあろう。
石破首相は「どこで災害が起きてもきちんと対応できる体制をつくる」とする。本庁、地方拠点とも実効性の高い組織にするために、自治体の被災経験を踏まえた活発な議論を望む。