小泉進次郎農相が、今後放出する備蓄米5キロ当たりの店頭価格を2千円台に引き下げる方針を打ち出した。現在の市価のほぼ半値で、コメ高騰が始まる前の水準に当たる。

 農林水産省はこれまで三たび備蓄米を放出したが、価格は下がらず、備蓄米自体が届いていない店頭も多い。小泉農相は競争入札を随意契約に切り替え、価格を指定して小売業者などに直接売り渡す方式に改めた。既に20社以上が申し込み、6月初めにも店頭に並ぶ見込みだ。

 消費者には朗報だが、重要なのは備蓄米の値下げにとどめず、それを呼び水にしてコメ全体の価格を下げることだ。政府はコメ価格高騰の原因を精査し、適切な価格で持続的に消費者の元に届くよう対策を講じなければならない。

 従来の備蓄米の競争入札では、9割以上を全国農業協同組合連合会(JA全農)が落札していた。一定規模以上の集荷業者に対象を限った結果だが、円滑な流通や価格の下落には至らなかった。

 今回の随意契約には大手スーパーやネット通販など、競争入札と異なる顔触れの企業が参加した。精米や袋詰めなどのノウハウを蓄積して本格的にコメの販売に参入すれば、流通経路が多様化して価格の抑制に結びつくことが期待できる。

 ただ競争入札と違い、随意契約には業者選定が恣意(しい)的になる懸念がある。政府は契約に至った理由をきちんと開示するべきだ。

 90万トンあった備蓄米の在庫は、今回の放出で30万トンに減少する。小泉農相は価格引き下げに向け全量放出も念頭に置いているようだが、過去には災害の被災地に備蓄米が届けられており、慎重な検討が不可欠だ。

 農業者の関心は、早くも今秋の新米価格に向いている。既に全国のJAの中には、ブランド米の買い取り価格を2024年産より大幅に引き上げる意向を示す例もある。新米の奪い合いがコメ価格全体をさらに引き上げる可能性が否めない。

 消費者にとって、コメは安いにこしたことはない。ただ留意すべきは、肥料や燃料の値上がりでコメの生産コストも上昇している点だ。現在は60キロ当たり平均約1万6千円で、小規模農家ほど高くなる。これまでスーパーで売られていた5キロ2千円台の価格では、採算割れとなっている農家も少なくない。

 農家が持続可能な買い取り価格と、消費者が納得できる販売価格の水準を両立させなければ、食料安全保障の基盤となる国産米は担い手の確保が難しくなる。市場価格と生産コストの差額を生産者に直接支払うなど、効果的な施策を練り上げるのが農政の本分である。