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 物価高に賃金アップが追いつかず、暮らしの安心感には程遠い。政治は当面の負担軽減にとどまらない、実効性のある賃上げの方策を議論してほしい。

 日銀が実施した6月の「生活意識アンケート」では、物価上昇を感じる人が9割を超えた。暮らし向きに「ゆとりがなくなってきた」との回答も6割に増えている。「ゆとりが出てきた」は3・8%に過ぎない。

 5月の毎月勤労統計調査(速報、従業員5人以上)では、名目賃金である現金給与総額は前年同月比1・0%増の30万141円と41カ月連続で増えている。しかし物価上昇分を差し引いた実質賃金は5カ月連続で減少し、マイナス基調が続く。実質賃金の目減りで財布のひもは固くなったままだ。

 物価高騰は止まらず、特に食料品の値上がりが家計を圧迫している。コメ価格は政府備蓄米の放出で落ち着きを見せつつあるものの、帝国データバンクによると、7月に値上げされる食品は2105品目で前年同月比5倍に上る。消費支出のうち食費の割合を示すエンゲル係数が上昇し、国民の生活水準が低下している現状は明らかだ。

 参院選では負担軽減策として野党が求める消費税の減税・廃止か、与党が掲げる現金給付かが争点となり、賃上げを巡る論戦は深まったとは言い難い。

 消費税に関する主張が勢いを増したこともあり、財政悪化の懸念から国債が売られて価格が下がり、長期金利は17年ぶりの高水準を記録した。金利上昇は借金頼みの財政運営に対する市場の警告であり、景気にも水を差しかねない。与党の過半数割れで財政運営の不透明さが増せば、金利はさらに上昇する恐れがある。

 持続的な賃金上昇には、働き手の7割を雇用する中小企業に賃上げの動きを波及させることが不可欠だ。最低賃金を巡り、政府は「2020年代に全国平均1500円」の目標を掲げ、各党も参院選で大幅アップを唱えた。人件費増にも直結するだけに、とりわけ中小企業がコスト上昇分を適切に価格転嫁できる環境整備が求められる。

 企業が成長してこそ賃金上昇は長続きする。国会では具体的な成長戦略を議論するべきだ。