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 7月の参議院選挙は物価高対策や外国人政策に有権者の関心が集まった。一方で、すべての国民に関わるテーマでありながら議論が高まらなかったのが、介護現場の窮状である。

 東京商工リサーチによると、2024年の介護事業者(老人福祉・介護事業)の倒産は172件、前年比40・9%増と過去最多を記録した。兵庫も8件を数える。休廃業・解散を合わせると784件、同24・0%増に上り、7割近い529件が高齢者の在宅生活を支える訪問介護事業者だった。今年も6月までで訪問介護事業者の倒産は前年同期比12・5%増の45件と、過去最多のペースで推移する。

 人材不足も深刻だ。全国の介護職員数は23年度、212万6千人(前年度比2万9千人減)となり、介護保険が始まった00年度以来、初めて減少した。労働組合「日本介護クラフトユニオン」の調査では、訪問介護事業所の73・3%が「仕事の依頼があっても人手が足りず受けられなかった」と答えた。

 国が掲げる「地域包括ケアシステム」は、高齢者が要介護状態になっても住み慣れた地域で暮らし続けられるのを目標とする。しかしその根幹となる訪問介護が危機的な状況にある。

 主因は介護報酬の減額だ。施設サービスを含めた介護報酬は厚生労働省が原則3年に1度改定するが、訪問介護の基本報酬は24年度改定で引き下げた。22年度の実態調査で訪問介護事業の利益率が良かった点を理由に挙げた。

 しかし事業者収入の大半は介護報酬が占めており、引き下げで賃上げの原資が確保しにくくなっている。他業種との賃金格差を広げており、人材流出に拍車がかかる。

 介護保険制度の介護サービス体制を立て直し、人材を定着させるには十分な賃上げが求められる。介護報酬を引き上げるための財源確保が不可欠だ。担い手の一定数は外国人材に頼らざるを得ないだろう。

 参院選では社会保障費の財源となる消費税の引き下げの是非が論点となった。目先の負担減にとらわれず、実態を踏まえた上で公費や社会保険料、自己負担の在り方について、国民的な議論を重ねる必要がある。