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 高市早苗首相の所信表明演説に対する各党の代表質問が始まった。首相就任後初の国会論戦である。

 衆参両院で少数与党の苦しい現状を映し、低姿勢の答弁が目立つ。ただ中身の具体性には乏しく、党派を超えて幅広い合意形成を探る姿には遠い。首相には野党に歩み寄る謙虚さを、野党には政権批判にとどまらない政策提案を求めたい。

 「政治とカネ」の問題に対する首相の姿勢には、首をかしげるばかりである。立憲民主党の野田佳彦代表は、自民党の派閥裏金事件を受けた政治改革をただした。首相は「政治への信頼を損ねた」と陳謝しつつ、「それぞれの議員が丁寧に真摯(しんし)に説明責任を尽くしてきた」と従来の認識を変えなかった。

 企業・団体献金の見直しを巡っては「政治活動の自由に関わる」と述べ、献金の受け取り先を政党の本部と都道府県支部に限る規制強化案にも慎重だった。

 連立を組んだ日本維新の会は参院選で企業・団体献金の禁止を訴え、連立合意書にも明記された。だが藤田文武共同代表は質問で触れなかった。国民の政治不信を招いたことへの危機感はどこへいったのか。これ以上の先送りは政治の怠慢だ。

 自民、維新両党が「臨時国会中の成立を目指す」と合意した衆院議員の定数削減に関して、首相は「身を切る改革として重要な課題であり共に取り組む」としながら、与野党の幅広い賛同が必要とも答えた。

 選挙制度は民主主義の根幹に関わる。結論ありきの拙速な議論は避けねばならない。

 一方、首相の持論である保守色の強い政策には力がこもった。

 憲法改正について「少しでも早く改憲の賛否を問う国民投票が行われる環境をつくれるよう、粘り強く全力で取り組む」とした。安全保障政策では防衛費を国内総生産(GDP)比2%とする目標時期を本年度中に前倒しすると繰り返した。しかし、財源に見込む所得税増税の開始時期は決まっていない。

 物価高対策で与野党6党が合意したガソリン税の暫定税率の年内廃止に伴う財源の確保についても、結論を先送りしたままである。

 首相は「強い経済」や「責任ある積極財政」を唱えるが、財政出動や減税は安定財源の確保が大前提となる。政策に優先順位をつけた上で、多様な声に耳を傾け、丁寧な合意を探る熟議に徹するべきだ。

 少数与党の国会では、野党も政策決定の責任を共有していることを忘れてはならない。代表質問に続き、一問一答形式の予算委員会が開かれる。国民に分かりやすい、率直かつ建設的な論戦を深めてほしい。