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 政府の中央防災会議の作業部会は、首都直下地震の新たな被害想定を12年ぶりに公表した。

 都心南部を震源とするマグニチュード(M)7・3の地震が起きると最悪の場合、死者1万8千人、経済被害は82兆6千億円と推計した。建物の耐震化や木造住宅密集地域での防火対策が進んだ結果、2013年の前回想定より死者は5千人減、経済被害は約13兆円減った。

 だが政府が15年に策定した基本計画で掲げた、死者数を10年間で半減させる目標には及ばなかった。政府や企業の中枢が集中する東京に大きな被害が出れば、影響は全国に広がる。膨大な人口を抱えるだけに、救助や被災者支援は困難を極めよう。官民を挙げて備えを再点検し、激甚化する被害を最小限にとどめる減災対策を急ぐべきだ。

 M7級の首都直下地震は30年以内に70%程度の確率で発生するとされる。震度6以上の揺れが襲う地域は約5千平方キロに及ぶ。冬の夕方(風速8メートル)に起こるケースで死者数が最大になる。東京は最大8千人で、1都4県(東京、神奈川、千葉、埼玉、茨城)の4割超に当たる。

 とりわけ重要なのが、死者数の3分の2を占める火災の対策だ。全壊・焼失家屋は約40万棟で前回想定の61万棟から減少した。住宅の耐震化率が向上したほか、火災に弱い木造住宅密集地域も解消が進んだ。行政と住民が一体になった取り組みの成果だ。流れをさらに加速させたい。

 一方、首都圏で急増する高層マンションの住民への対応は新たな課題だ。在宅避難が基本となるが、停電や故障でエレベーターが止まり、ライフラインや食料が途絶えれば、多くの世帯が孤立しかねない。1週間は過ごせる備蓄を進めるなど、住民の「自助」も欠かせない。

 避難者は最大480万人に及ぶ。避難生活に伴う体調悪化などで生じる災害関連死の数を初めて試算し、1万6千~4万1千人と幅を持たせた。病院や介護施設の被災によって支援が行き届かなければ、さらに増えるだろう。高齢者ら「災害弱者」の命を守るきめ細かな対策を事前に検討しておくことが重要となる。

 840万人に上る帰宅困難者も難題だ。これとは別に、訪日客を含む観光や出張で訪れた65万~88万人も滞留する。行政や企業などが開設する「一時滞在施設」は都内で約50万人分しかない。施設の増加に努めるとともに、帰宅を急がず勤務先にとどまる冷静な行動も徹底したい。

 災害時には交流サイト(SNS)などでデマや誤情報が広がる恐れがある。政府は正確な発信に努め、利用者も真偽を見極めて安易に拡散しないよう留意せねばならない。