政府は出産にかかる費用を無償化するため、正常分娩(ぶんべん)に公的医療保険を適用する方針を決めた。少子化対策の一環で、全額を保険で賄い親の負担をゼロにする。2027年度以降に導入する見通しだ。
これまでも出産費用に相当する一時金が母親に支給され、23年には42万円から50万円に引き上げられたが、施設側も費用を引き上げる「いたちごっこ」が指摘されていた。兵庫県内での24年度の出産費用は平均約51万5千円で、諸費用を含む合計負担額は約58万7千円に上る。
安心して出産できる環境を整えるためには、経済的な不安を取り除くことが欠かせない。すでに保険適用され3割の自己負担がある帝王切開も含め、親の出費を極力なくせるような制度設計にしてもらいたい。
見過ごせないのは、出産を扱う病院や診療所の経営に、保険適用が及ぼす影響だ。
出産は24時間対応できる体制が必要で人件費などがかさむ一方、少子化の影響で件数は減り続け、近年は兵庫県を含め全国で出産可能な施設が急激に減少している。
24年度の出産費用は、最も高い東京都の約64万8千円から最低の熊本県の約40万4千円まで大きな開きがある。保険適用になれば全国一律の公定価格となるため、各施設が決めている水準より大幅に低くなれば経営体力が奪われる可能性がある。
政府は具体的な費用設定を検討中だが、日本産婦人科医会などは施設の撤退につながりかねないとして保険適用に強い懸念を示している。
子育て支援のためにお産を無料にした結果、出産可能な施設が先細る結果になれば本末転倒というほかない。「最後のとりで」を担う基幹病院に妊婦が集中し、周産期医療が立ち行かなくなる恐れもある。政府は自治体と協力し、影響を事細かに見極めなければならない。
安心して出産できる環境整備には産後ケアの充実も欠かせない。
核家族化により母親は孤立しがちで心身の不調を訴える人が多い。10人に1人がなるとされる「産後うつ」への対応も不可欠だ。
神戸市内の産婦人科病院長は「出産費用の枠内で相談対応や両親への講座、母乳指導などのケアを実施してきた。保険適用により費用が減額されれば従来のサービスができなくなる」と強調する。
母子を支えるために有用なケアは幅広く保険や助成の対象とし、出産施設の経営安定の一助とするべきだ。産後ケア事業は21年度から市区町村に努力義務が課されている。各自治体は医療や福祉との連携を強め、施策を質量ともに高めて人口減対策につなげてほしい。























