一戸建て住宅の2階に上がると、尿の臭いと強烈な腐敗臭が鼻を突いた。小バエが飛び交っている。
私たちは大阪市内の住宅街で、遺品整理会社「メモリーズ」(本社・堺市)の仕事に同行している。前回紹介した大阪府東大阪市の増野節代さん=仮名=が、孤独死した父の家の片付けを依頼した業者だ。
この家で独りで暮らしていた大山浩二さん=同=は10日ほど前、家の中で亡くなっているのが見つかった。70歳。姉が1カ月以上前から何度か訪ね、電話もかけたが連絡が取れなかったという。
◇ ◇
「まずは手を合わせます」。作業を担当する横尾将臣社長(50)ら2人がキッチンに立ち、大山さんが倒れていた奥の居間を向いて手を合わせる。私たちも目を閉じ、合掌する。
キッチンの流し台に食器がたまっている。茶わんや皿、鍋にフライパンもある。棚にインスタントラーメンと缶詰。壁に掛けられたカレンダーは3カ月前のままだ。当たり前だが、ここで人が暮らしていたのだと実感する。
片付けの作業が始まる。大山さんが倒れていた居間は、カーペットが焦げたように茶色く変色していた。ビニール手袋をはめた横尾さんが、へらや特殊な薬剤を使って汚れを落とす。今回は応急処置で、家族が家の中に入られるようにする程度らしい。3時間ほどで作業は終わった。
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どんな人だったんですか?
私たちは、代金の支払いに訪れた姉に話を聞く。
「年金でほそぼそと暮らし、たまに友人とカラオケに行って。料理も上手で…。でも近所付き合いはあまりなかったですかね」。きょうだいとは盆と正月、お彼岸には顔を合わせていた。
「大山さんですが、SOSのサインは出てますね」。作業中の横尾さんが教えてくれた。
「ごみが捨てられなかったり、インスタントラーメンの食事が増えたりしているのが分かる。孤立した状態で生きるって大変だと思うんです」
別の日に横尾さんに会うと、これまでに足を運んだ孤独死の現場で撮ったという写真を見せてくれた。その中に、死の直前に書き残したとみられるメモがあった。私たちは目を見張った。
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