尼崎市の斎場で無縁仏として弔われた女性の遺体は、火葬までの2週間、大阪市西成区の葬儀会社に安置されていた。ここの社長は、女性の火葬手続きを担当した浦西和良さん(52)の仕事仲間だ。
「1カ月おった人もいてますよ」。私たちが訪ねると、社長が遺体を保管する冷蔵室に案内してくれた。いくつかのひつぎと、布にくるまれた遺体が安置されている。同業の仲間に頼まれ、身内が引き取るかどうか確認できるまで置かれることも多い。
無縁仏となった女性には内縁の夫がいたが、遺体は引き取られなかった。私たちはその理由を聞くため、再び尼崎市に向かった。
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女性の内縁の夫、本田義郎さん(75)=仮名=の住まいは、学生が住んでいそうなワンルームマンションだった。6畳ほどの部屋に独りで暮らす。カーテンレールにシャツが何枚か掛かっている。
肺気腫を患い、心臓も悪い。鼻からチューブが延び、その先は酸素を供給する機械につながっている。ヘルパーが週3回、食事や掃除をしてくれるそうだ。「あいつとは若い時から一緒やったから。そら、寂しいよ」。義郎さんが話し始める。時々、むせて言葉が詰まる。
女性は認知症だった。3年ほど前から症状が現れ、薬の管理も、料理もできなくなった。交通事故の影響もあり、車いす生活が続く。介護は義郎さんが担った。
「最初はな、腹立ったんや。曜日は分からんし、薬も飲まれへんし。でも俺、ちゃんとやったよ。しょっちゅう、公園連れて行ったしな」
女性はショートステイの利用中に体調を崩し、病院に運ばれた。「病院行ったら、もう亡くなっててな。俺、『よー頑張った』って声掛けて」
火葬の日、義郎さんは入院中だった。「ほんまは葬儀、したかったんや。情けないけど、体がな…」。そして言葉を続ける。「遺骨もな、ほんまは手元に置いときたい。でも俺もこんな体で、いつ死ぬか分からん。あいつの骨置いて死んだら、なんか粗末にすることになるんやないかと思ったんや」。私たちは黙って話を聞くことしかできない。
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尼崎での取材を終えた私たちは、兵庫県の東播地方にある古い団地に向かった。独り暮らしの高齢者が多く住んでいると聞いたからだ。
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