シリーズ「いのちをめぐる物語」を書き進める私たちの元に、兵庫県尼崎市の介護施設の管理者からメールが届いた。
「低所得者の最期について取材してほしい。お金のある人は『行き場』がありますから」。そんな趣旨だった。私たちは尼崎に向かった。
競艇場のすぐ北側、古い住宅街の一角に、その施設はあった。小規模多機能型居宅介護事業所「プチとまとちゃん」という。メールの送り主、西川充さん(59)が案内してくれる。
3階建てで入居者は1階で暮らす。全部で9部屋あり、室内はフローリングで4畳半ほどの広さだ。2階の食堂に行くと、利用者がくつろいでいた。「生活保護の人も多いですよ。こちらの女性もそうです」。車いすに座った女性がテレビを見ている。
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広沢好子さん(98)=仮名=という。あいさつをすると「お好み焼き、食べに来て」と返ってきた。重度の認知症らしい。
私たちは広沢さんの親族の女性に話を聞いてみた。
広沢さんは洋裁学校を出て、洋服の仕立てや洋裁教室で生計を立てた。「ピーク時は50人ぐらい生徒さんがいて、男性より稼いでいたらしいですよ」と教えてくれる。だが既製品が大量販売される時代に入り、少しずつ経済的に苦しくなる。
20代前半で結婚したが、すぐに離婚。妹の嫁ぎ先が菓子メーカーの創業家だったため支援を受けることになった。だが20年ほど前に会社は経営破綻し、暮らしを支えられなくなってしまった。
「年金はないんです。保険料も支払っていなくて…。将来ずっと、いい生活が続くと思ってたんでしょうかね」。8年前、生活保護を申請したそうだ。
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「みんなね、いろんなドラマがあるんです」。西川さんが話す。入居者には身寄りがなく独り暮らしの人も多い。
「プチとまとちゃん」ではこの1年で6人をみとった。簡素な家族葬を挙げ、遺体は斎場へ送られる。すべて葬祭業を営む「優和セレモニー」が執り行った。引き取り手のない遺体の火葬手続きも、よく手掛けるという。私たちは代表の浦西和良さん(52)に連絡を取ることにした。
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