「私は70歳の1人暮らしです。夫と長男は18年前に病気で亡くしました」。この秋、こう書かれた手紙が取材班に届いた。
「今年の3月に悪性腫瘍の告知を受けました。膵(すい)臓がんで転移も複数。手術は不可能で完治は望めず」。延命治療は拒み、緩和ケアのみ希望するとし、「出来(でき)る限り在宅で」とつづられている。
10月、私たちは差出人の小西明子さん=仮名=に会うため、姫路に向かった。
◇ ◇
ショートカットで、ほっそりとした女性が迎えてくれる。「20歳で結婚してから、50年住んでいる」という一軒家。和室で向かい合い、病気の経過から教えてもらう。
今春、主治医に余命を尋ねた時のこと。はっきりとした答えはなかったが、「1年ぐらい」と理解したという。
それから、兵庫医科大への献体の登録や墓じまいなどの終活を進めてきた。今は抗がん剤を飲みつつ、衣料品を袋詰めする内職や趣味の絵手紙を続けているそうだ。
冷蔵庫に張られたはがきサイズのメモを見せてもらう。救急隊員に宛てて書いた。「延命治療は望みません」と意思表示している。
終始、穏やかに話をしてくれる小西さんに「孤独死への不安はありませんか」と聞いてみる。「独りで亡くなってもそれも運命。夜に亡くなっていても、この隣保では午前中に発見してくれるはずです」と返ってきた。近所の2軒には「雨戸が開かなかったり、洗濯物が干しっぱなしだったりしたら、気付いてね」と頼んであるという。
突然死は想定内。ただ、「在宅で誰かにみとってもらえたら、理想です」と小西さん。一方で「独りやし、無理かな」とも。話すうちに言葉が熱を帯びていった。
「寝たきりになっても家にいたい。入院した時に思ったんです。病院は風が入ってこない。時間の流れがなくて、生きている感じがしません。私は、家におりたい」
◇ ◇
11月末、再び小西さんの家を訪ねる。「今年で最後かな」と思いつつ冬を過ごしているという。甘酒を仕込んでスダチのジャムを作って。「家で亡くなれたらいいけれど、人に迷惑は掛けたくありません。家におりたいっていうのは最後のわがままかな」
わがままなんだろうか? そんなことはないはずだ。明快な回答を聞きたくて、私たちは1人の医師を訪ねた。
2019/12/19【募集】ご意見、ご感想をお寄せください2019/12/10
(18)納得の終章、選べれば2019/12/27
(17)読者の声 孤独死でも笑顔であれば2019/12/26
(16)どんな暮らし 待ってるの2019/12/25
(15)寂しくない最期だった2019/12/24
(14)身元保証でつながって2019/12/23
(13)今日も明日も、家にいたい2019/12/22
(12)「独居は孤独」じゃない2019/12/21
(11)「円」になって支える2019/12/20
(10)最期は家 わがままですか?2019/12/19
(9)親族が孤独死 明日はわが身2019/12/18
(8)何とも言えぬ思い残った2019/12/17