私たちは、独り暮らしのみとりに力を入れる岐阜県の小笠原文雄(ぶんゆう)医師(71)を取材しながら、「こういうことができるのは小笠原医師がいるから? 岐阜だけ?」と考えてしまう。
すると、小笠原医師が「兵庫にはこんな人がいるよ」と言って、1人の女性の連絡先を教えてくれた。
藤田愛さん(54)という。看護師で、神戸市須磨区にある「北須磨訪問看護・リハビリセンター」の所長を務めている。
小笠原医師が会長の「日本在宅ホスピス協会」が、在宅医療のキーパーソンとして認定する「トータルヘルスプランナー(THP)」の1人。THPは全国に42人いるそうだ。私たちは藤田さんに会いに行った。
◇ ◇
事業所は北須磨団地の近くにあった。12人の看護師や理学療法士がいて、約200人の在宅療養を支えている。
24時間態勢の「定期巡回・随時対応型」の介護事業所や医師らと連携しながら、独り暮らしの人もケアしてきた。
藤田さんが、ここ数年の記憶をたどって振り返る。脳梗塞の後遺症があった90歳手前の男性は「家族みたいなヘルパーさん」のこまめな訪問に支えられ、団地の一室で息を引き取った。老衰だった。
「病院が嫌いで、病院から“脱走”した人もいましたよ」。60代の男性でがんを患っていた。離婚してマンションに独り暮らし。自宅で1カ月半ほど過ごし、呼吸が止まっているところを発見された。
「体調不良で救急車を呼んだけど、やっぱり家がいいと言って戻った人もいました。みんな迷いながら、生き抜くんだと思います」
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「今日も明日も、家にいたい。その理由は何か。価値観を理解することが大事です」と藤田さん。そして阪神・淡路大震災のときのことを話してくれた。当時は西宮市の保健所に勤務し、仮設住宅を回った。独居の人も多かった。
「私は保健所の前に病院で働いていたので、『はよ入院させな』とか、そんなことばかり考えていた。ことごとく覆されました。今日一日、ここで過ごしたいのが、この人の人生やって。大切なことを選んで貫いてるんやから、それを見守らないと。そう教えられました」
だから「私の礎は仮設住宅での経験です」。
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