雨が降っている。
目の前に1台の白いワンボックスカーが止まった。喪服を着た運転手が車の後ろに回りドアを開けると、中のひつぎが見えた。
私たちは兵庫県尼崎市の斎場にいる。葬祭業の「優和セレモニー」代表、浦西和良さん(52)から、引き取り手のない女性の遺体の火葬手続きをすると聞いて訪れた。女性には内縁の夫がいるが、無縁仏として供養されるらしい。
少し遅れて、浦西さんがやって来る。ひつぎの中の女性は2週間前に83歳で亡くなり、ようやく火葬できることになったと説明してくれた。
◇ ◇
浦西さんが窓口で火葬の手続きを済ませ、ひつぎが斎場の中に入っていく。私たちも浦西さんと運転手の男性とともに、遺族が故人と最期のお別れをする告別室に入る。
ひつぎのふたが開けられ、中に白髪の小柄な女性が横たわっているのが見えた。全員で手を合わせる。
運転手の男性がたばこを1箱入れた。「内縁のだんなさんに『たばこ好きやったから、入れたってくれ』って頼まれたんです」と、浦西さんが神妙な顔で言う。
遺体の足元にビニールのかばんが見える。亡くなった病院にあった下着や歯ブラシが入っているという。「その人にとって何が大事か分からんから、あったもんは全部入れるようにしてるんです」
ひつぎのふたが閉められ、炉の前へ移動する。ひつぎが炉に入れられ、職員がボタンを押すと金属製の扉が閉まった。火葬が始まる。
斎場に入って、わずか5分ほどの出来事だった。
外に出ると、さっきよりも雨が強くなっている。斎場の前に白い霊きゅう車が到着した。運び出されたひつぎには鳥の彫刻がほどこされ、多くの遺族に囲まれている。
先ほど、浦西さんと一緒に見送った83歳の女性との違いに、少し胸が痛くなる。
◇ ◇
それにしても女性の遺体は亡くなってから2週間、どこで安置されていたのだろう。内縁の夫がいたと聞いたが、どうして遺体を引き取らなかったのだろうか。私たちには、分からないことがたくさんあった。
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