私たちは小笠原文雄(ぶんゆう)医師(71)とともに、膵臓(すいぞう)がんを患いながら独りで暮らす松原芳子さん(63)の家を訪れている。
松原さんがすでに遺影を用意したといって、小笠原医師や私たちに見せてくれる。
「やり残したことを、これから一つずつやっていきたいです。孫を(名古屋の)東山動物園に連れていきたい」
大好きな韓流ドラマを見たり、好物の生ものを食べたり。「何かあれば夜でも来てもらえるし、安心しています。後は楽に、痛みなく死ねたら…」と静かに語った。
◇ ◇
松原さんと別れた後、岐阜市のクリニックに戻る車内で、小笠原医師が話してくれる。「このまま病院にいたら孤独死してた、って話す女性がいてね。人は大勢いるけど、孤独だったって。家では看護師さんやヘルパーさん、毎日誰かが来てくれて、心が通い、元気になったって」
天井の雨漏りの跡を見て昔を思い出し、心が温かくなった、と話す患者もいた。「独居は孤独、という概念を覆したいんです」と小笠原医師。平成元年の開院以来、約1500人を在宅でみとった。このうち独居の患者は85人。この3年で33人が住み慣れた家で息を引き取ったという。
◇ ◇
最期まで家にいるには、何が必要なのだろうか?
私たちの問いに、小笠原医師は「痛みや苦しみを取る医師や看護師のスキル。24時間態勢で暮らしを支える多職種のチーム」と答えた。
独居こその悩みは多い。トイレに行けなくなったらどうしよう。夜も不安だ。「それなら24時間巡回型の訪問介護や、薬でぐっすりと眠って朝はちゃんと目覚める夜間セデーションなどの方法があります」と小笠原医師。認知症で要介護4だった82歳の女性も自宅で亡くなったそうだ。
お金の不安も聞いてみた。「自費で家政婦を頼んだりすれば金額は膨らむけれど、ほとんどは医療保険と介護保険の枠内で収まる。生活保護の人もいましたよ」
最期まで家にいるには、という問いに再び戻る。小笠原医師はこう言い切った。
「最も大事なのは、人生観や死生観。独り暮らしでも幸せだと本人や家族、親族が知ることです。笑って生きて、笑って死ぬんだったら、独りで死んだっていいじゃない」
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