「愛していたから、自分の一部を失ったような、心が引き裂かれるような思いでした。亡くなった後は、『私が泣いていたらトッティが心配するから…』とか考えず、たくさん悲しんで、たくさん泣きました」
ペットロスの苦しみや向き合い方を、そう話すのは飼い主のvanさん(@van33007715_van)。愛猫トッティくんは猫の胃腸に発生する消化器型悪性リンパ腫と闘い、17歳で虹の橋へ旅立った。
■姉の愛猫が世話を焼いていた“1匹の野良猫”が気になって…
2005年頃、飼い主さんは姉宅の猫ハチくんが唯一、心を許した野良猫が気になった。当時は、猫の室内飼いがまだ主流ではない時代。外飼いだったハチくんは喧嘩っ早く、近所のボス猫的存在だった。
「でも、ある日突然現れたトッティだけにはご飯を分け、寝床を貸してあげるようになったんです」
食事や寝床にありつけたことで、トッティくんは毎日、姉宅へ来るように。事情を知った飼い主さんは、トッティくんを自宅へ迎え入れた。
外生活を送ってきた猫の中には人間に対して強い警戒心を持っている子もいるものだが、トッティくんは甘えん坊の“人たらし猫”。猫エイズキャリアではあったが、他に病気は患っておらず、家猫ライフにすぐ慣れてくれた。
「お手やお座りができ、私の食事中に欲しいものがあると、横で“エアーお手”をしていました(笑)」
■「免疫介在性溶血性貧血」から奇跡のV字復活!
お迎えから1年後、トッティくんは「免疫介在性溶血性貧血」を発症し、命の危機に。この病気は、自身の免疫が誤って赤血球を「異物」と認識することで起きると言われている。
容体は深刻。獣医師から「この状態から治った子はいない」と言われるほどだった。
だが、懸命な治療や生命力の強さにより、トッティくんは奇跡のV字復活を果たす。
闘病後、家族は穏やかな日常を取り戻した。トッティくんは外生活の経験があったことから、ハーネスをつけて近所を散歩するのが大好きだったそう。
「散歩に行きたい時は玄関に置いてあるハーネスを咥えてズルズルと引きずり、私のところへ持ってきました」
器用なトッティくんは、飼い主さんを起こすのも得意。段階を踏みながら起こすのが、トッティ流だ。
まずは、肉球で頬をトントン。それでも起きない時は、爪を出して頬をツンツン。唇に爪を刺すこともあった。
「最終手段は、6kg弱のボディでみぞおちにダイブ。段階を踏んでくれ、とても優しかったです(笑)」
■12歳を過ぎて到来した「抱っこブーム」に歓喜!
12歳を過ぎた頃、“意外な変化”が見られた。突然、大嫌いな抱っこが大好きになり、朝や晩に「抱っこして」とアピールするようになったのだ。
シニア期、飼い主さんは愛猫を気遣い、生活環境を見直しもしたという。
「気に入っている出窓の位置が高かったので、低めのタワーを登り台の代わりに設置しました」
愛猫がシニアになると、誕生日を無事に迎えられたことにホっとする一方、別れ日が迫ってきているようにも感じ、複雑な心境になることも。
飼い主さんの場合も、トッティくんがシニア期に入ってからは漠然と「お別れが怖い」と感じるようになったという。
その恐怖が明確な形になったのは、2021年3月。17歳になったトッティくんは、緑色や黒色の液体を吐くように。4軒もの動物病院を回って、ようやく「消化器型悪性リンパ腫」であると判明した。
「トッティの病気は、リンパ腫の中でも悪性度が高いものだと言われました。抗がん剤治療をしても副作用で亡くなる可能性もあると…。もし、抗がん剤が効いても1年、寿命が伸びるかどうかだと言われて…」
飼い主さんは悩んだ末、トッティくんがハイシニアであることも考慮し、対処療法で病気と向き合うことにした。
■「最期は私の腕の中で」を叶えてくれた親孝行な愛猫
ペットロスの苦しみは、闘病中から始まる。「いつか」だと思っていた別れが、こんなにも近いことを実感させられ、胸が苦しくなるからだ。
1日でも長く生きてほしい。そう試行錯誤しながら、飼い主側が自身のメンタルを労わることはなかなか難しい。飼い主さんの場合も。お別れが現実的になった時、セルフケアは何ひとつできなかったという。
「ただただ悲しみに耐え、受け止めようと必死な毎日でした。別れが近いと悟ってからはトッティがいたいところで、したいように過ごせていました。暗いところや静かな場所、冷たいところで寝たいのなら無理に動かさず、そのままにしていました」
お空へのお引越しの準備が上手にできていて偉いね。大好きだよ。愛してるよ。宇宙で一番かわいいよ。そう毎日伝えて、トッティくんの心を気遣った。
そんな風に心を通わせながら最期までの時を過ごしていたからだろう。飼い主さんにはトッティくんが旅立つタイミングが分かったという。
トッティくんは、飼い主さんがいつも抱っこ時に歌っていた歌を聞きつつ、抱っこタイムを1時間ほど堪能した後、ぐーっと伸びをして小さく痙攣し、空へ旅立っていった。
「上手に毛皮を脱いでいきました。トッティが旅立つ何年も前から、『最期は私の腕の中で…』と思っていたのですが、その望みを叶えて旅立ってくれて…。本当に親孝行な子です」
■ペットロス後に気づいた「共に過ごした時間」の価値
愛猫を失った悲しみは深く、初めの頃は泣かずに写真が見られなかった。だが、たくさんの涙を流す中で、飼い主さんは「目の前に姿がなくても、共に過ごした時間は決してなくならない」と気づき、心の在り方が少し変わった。
「今でも写真を見て泣く時はありますが、心のままに任せています。いつか、最期の時を思い出して泣く時間より、一緒に過ごした時間を思い出して笑う時間のほうがだんだん増えていくだろうと思うから」
トッティは永遠に息子であり、親友であり、恋人であり、師のような存在。飼い主さんはトッティくんから、無償の愛があることや愛に姿・形は関係ないことを教わったと言います。
「甘えん坊なトッティは寝る時、腕枕か胸の上が定位置だったのに、病気になってからは私から離れて、ひとり静かに耐え忍んでいました。もし、私がトッティだったら死が怖いし、体の辛さに耐えられるか分からない。強くてかっこよくて、立派な姿を見て、私も死を迎える時はトッティのようでありたいと心から思いました」
今の自分があるのは、トッティのおかげ。そして現在、一緒に暮らしている愛猫アルクくんとの縁も、トッティが繋げてくれたと感じる…。そう話す飼い主さんのことを、トッティくんは透明な姿で見守っているはずだ。
(愛玩動物飼養管理士・古川 諭香)

























