「たろっぺ」と呼ばれた一匹の猫。2025年7月14日、12年の生涯を閉じた(猫奴隷さん提供)
「たろっぺ」と呼ばれた一匹の猫。2025年7月14日、12年の生涯を閉じた(猫奴隷さん提供)

52匹の猫と暮らす--そんな日々のきっかけとなった1匹の猫が、12年の生涯を終えた。X(旧Twitter)で「猫奴隷(@nekodorei50)」として活動する男性は、保護猫たちと暮らしながら、多くの人に「命と向き合う日常」を発信している。

先日、その“始まりの猫”であり、家族であり親友だった「たろさん」を腕の中で見送った。

■移動販売会場の端にいた1匹の猫

「2014年4月29日、俺は初めてお金で猫を買いました」

投稿はそんな一文から始まる。当時訪れたのは移動生体販売の展示会。生後2~3か月の子猫が並ぶ中で、ひときわ目を引いたのは、1歳を超えた1匹のベンガルの姿だった。

他の子猫たちは元気に鳴き、人の気を引こうとする。しかし、その猫だけは展示会場の端にぽつんと座り、鼻水を垂らして一点を見つめ、何もかもを諦めたように動こうともしなかったという。「生気が感じられないその表情を見て、迎えようと決めました」と猫奴隷さんは振り返る。

名前は「たろっぺ」。鼻水がつららのように見えたことから、東北の方言で「つらら」を意味する呼び名をつけた。

■初めて走り回った日

ケージの中だけで過ごしてきたたろっぺが、家に来た日。キャリーから出ると、初めて自由に部屋中を探検し、ベッドに飛び乗って眠った。それから11年、血縁を除けば一番長く共にいた相棒だった。食べていたチーズを横から奪われて顔に傷が残ったことも、お気に入りのプラモデルを粉々にされたことも、どれも忘れられない思い出だという。

一時はFIP(猫伝染性腹膜炎)を発症し、獣医師にも「厳しい」と告げられたが、奇跡的に回復した。「全ての猫に当てはまることではない」と前置きしつつも、その時の恐怖と生還の喜びは一生忘れないと話す。

■旅立つ前の表情と、最期の言葉

今年7月14日、12年の生涯に幕を閉じたたろっぺ。最期の表情は、苦しみから解放されたかのように、いつもと変わらない穏やかな寝顔だったという。

「11年一緒にいて楽しかったよ」と伝え、いつもと同じ「おやすみ」が別れの言葉になった。

「たろさんが旅立った当日、本来は欠勤対応で残業しなければなりませんでした。でも、親子ほど歳の離れた上司が定時で帰らせてくれました。少しでも長く一緒にいられたのは、その配慮のおかげです。ありがとう、しぇんしぇい。」

■「一日家を空けるな」--猫が教えてくれたこと

「猫と共に生きるとは何か?」

その問いに、猫奴隷さんは「一日家を空けるな」と答えた。外出の必要がない猫にとって、室内の環境は何よりも大切だと、たろさんが教えてくれたという。今は52匹の猫と暮らす。これからも保護活動は続けていくが、願いは「保護が必要な猫がいなくなる世界」だ。

「たろさんが教えてくれたことを胸に、これからも自分にできることをしていきます」

■見送った猫が残してくれたもの

家族であり、親友であり、学びの先生でもあったたろっぺ。その生涯は、飼い主だけでなく、多くの人に「命と暮らすとは何か」を問いかけている。また会おう、たろっぺ。大好きだった家の中で、これからも猫奴隷さんと仲間たちを見守っているに違いない。

(まいどなニュース特約・渡辺 晴子)