最近、車屋で「エーミング」という馴染みのない言葉を見聞きして、何のことかと疑問に感じている人もいるのではないでしょうか。
エーミング作業をしなければいけないに関わらずエーミングを行わないままでいると、車を安全かつ正確に制御できないケースが発生します。
本記事では、エーミングとはどんな作業で、どんな時に必要となるのか、気になる費用面も含めて現役の整備士が解説します。
■エーミングとは
エーミングは自動ブレーキシステム、前走車追従システムなどに代表されるような、センシングシステムや自動運転に関わるセンサー、またはカメラ等を校正・機能調整する作業のことです。
エーミングには専用のターゲットを設置し、スキャンツールを操作しながら認識状態を確認することで校正・調整をおこなう「静的エーミング」と、スキャンツールでエーミングモードに入れて、特定の条件で車を走らせて自動的に校正・調整をおこなう「動的エーミング」があります。
また、業界内ではセンシングシステムは統一の名称として「電子制御装置」と呼ばれています。この電子制御装置に関わる部分を整備することを、「特定整備」といいます。
一般的にはセンシングシステムのことを、「先進運転支援システム(ADAS)」と呼び、その機能を備えた車のことを「先進安全自動車(ASV)」と呼びます。
■エーミングが必要なケースとはどんな時?
先ほど解説した電子制御装置に関わる部分の整備や部品交換が発生したときに、エーミング作業が必要になります。
▽エーミングが必要になる特定整備
エーミングが必要なケースをいくつか紹介します。
・フロントガラスの脱着、または交換
・フロントバンパー(リヤバンパー)の脱着、または交換
・フロントガラスに取り付けてある、自動ブレーキや車線認識に使われるカメラの脱着、または交換
・バンパーやグリル内にあるレーダーセンサー等の脱着、または交換
電子制御装置搭載車は、これらの作業が発生したときにエーミングが必要となります。
▽エーミングを伴う特定整備が発生する事例
上記のような作業が発生する具体例をいくつか以下にまとめました。
・事故をしたとき
・フロントガラスにひびが入りガラスの交換が必要になった
・カメラやセンサーに不具合があり交換が必要になった
さまざまな機能を備えたASV(先進安全自動車)にとって、エーミング作業は非常に身近なものとなっています。
▽【補足】エーミングをしないとどうなる?
エーミングの必要がある場合に、エーミングをしないと以下のような不具合や問題を生じます。
・警告灯が点灯したままになる
・センシングシステムが機能しない
・センシングシステムが誤作動する
(例)意図しないタイミングで自動ブレーキが作動する、ハイビームコントロールが意図した場面で切り替わらないなど
・車検に通らない
自動運転、自動ブレーキ、レーンキープアシスト…等の先進安全機能は本来は人間がおこなうべき操作の一部を、コンピューターに頼っており、それ故に非常に緻密で繊細な制御をおこなっています。
よってエーミングを怠ると、それらの機能が本来の作動シチュエーションとは異なる状況で誤作動したり、または作動すべきときに作動しない可能性もあります。
また、実際に行った作業によっては、エーミングが正しく完了するまでは警告灯を点灯して、先進安全機能の作動を停止する場合もあります。
警告灯が点灯していると基本的に車検にも通らないので、エーミングが必要な場合はかならずエーミングを実施しなければいけません。
■エーミングをする車の部位
整備をしたときにエーミングをしなければいけない部位はさまざまです。以下の部位を脱着、または交換したときにエーミングの必要があります。
・フロントバンパー
・フロントレーダーセンサー
・フロント赤外線センサー
・フロントガラス
・フロントカメラ
・リヤバンパー
・後側方レーダーセンサー
・リヤゲート(リヤトランク)
・リヤカメラ
・ドアミラー
・サイドカメラ
・インテリジェントクリアランスソナー(ウルトラソニックセンサー)
搭載されている先進安全機能、それに使用されているセンサーによって、実際にこれらが該当するかどうかは車やメーカーによって異なります。
インテリジェントクリアランスソナー(ウルトラソニックセンサー)は、従来のコーナーセンサーと見た目は変わりませんが、先進安全機能の進化に伴ってセンサーとしての役割が増えたことで、エーミングの必要がある車が出てきました。
■エーミングの料金の目安
エーミングの実施にかかる費用は、エーミングに必要な機材や所要時間によって大きく異なりますが、「1万5000円~/1箇所」を相場としておおよその金額をイメージしてください。
エーミング点検の後に調整が必要かどうかやセンサーの機能性の種別によって、基本料金にプラスで費用が追加になるところもあります。
また、事故の修理でエーミングが必要なとき、保険修理であれば板金塗装の修理と同様に保険内で修理が可能です。
■エーミングにかかる時間
エーミングにかかる時間は短いものだと1時間以内で終わるケースもありますが、数時間かかるケースもあります。
わたしの経験談で、同一車種の同じ部品のエーミングで走行エーミングをしたときに、15分程度の走行に終わったと思えば、別の機会では1時間以上を要したこともあります。
また、依頼した整備工場では環境が整っておらず、エーミングを外注しなければいけないケースがあります。
機材の準備やこういった入庫後の外注の可能性も考慮し、余裕を持って半日程度の時間を確保しておけば、まず間違いないでしょう。
■整備士のまとめ
エーミングは国内では2010年代以降、主流になってきた自動ブレーキ等に代表される先進運転支援システム(ADAS)整備時に必須となる作業です。
エーミングが必要なとき「しなくてもいい」「また今度でいい」といった選択肢はありません。これは意図しない走行時における危険を伴う可能性があるためです。
まだ新しい技術でピンとこない方も多いでしょうが、記事内で紹介したように身近な整備や修理でもエーミングが必要なケースが多いです。
今後の新型車においては、車の本来の性能を正しく安全に発揮するためにも、よりスタンダードな整備のひとつとなっていくでしょう。
◇ ◇
◆整備士・ヒロ
国産ディーラー、輸入車ディーラーで勤務してきた2級自動車整備士。整備士経験は10年以上で、過去にはエンジニアとして全国規模のサービス技術大会に出場したことも。 車の整備に関する情報をtwitterで発信している。
(まいどなニュース/norico)