極端な勉強を始める真船さん(真船佳奈さん提供)
極端な勉強を始める真船さん(真船佳奈さん提供)

子どもがまだ小さいうちは「教育なんてまだ早いかな」と思う親御さんは少なくないでしょう。しかしママ友との会話やネットの情報を耳にすると、「本当に何もしなくて大丈夫なの?」と急に不安になることも。教育のスタートラインが見えず、迷子になってしまう感覚は、多くの親が一度は経験する悩みかもしれません。

そんな葛藤を描いたのが、漫画家の真船佳奈さんがX(旧Twitter)に投稿した作品『ちゃんと子供を教育しないと親失格ですか?』です。

真船さんが「まだ幼いし教育は必要ないかな」と思っていたところからエピソードが始まります。ある日、同じ年頃の子どもを持つママ友に子どもの教育について話を振ると、“絵本の読み聞かせ”、“英語で語りかけ”、“モンテッソーリ教育”、“電子音おもちゃはNG”、“幼児教室”など、教育熱心な取り組みが次々と出てきました。

そこからネット検索でさらに情報を目にし、「最低限やっておかないと発育に影響が…」と焦りが募ってしまうのです。その結果、教育本を片っ端から読み“テレビは1日1時間まで”、“毎日英語で語り掛け”、“手作りおもちゃで知育”、“絵本は1日30冊”、“インター幼稚園も視野に”と一気に教育ママへ変身しようと奮闘。

また真船さんが子育てについて旦那に相談すると「一切必要ないと思うけど…」とあっさり言われますが、「子どもの才能を伸ばすのは親の役目なんだよ!?」と反論します。しかしその努力は裏目に出てしまい、手作りおもちゃは見た目もイマイチ、英語の声かけでは真船さん自身の語学力不足が浮き彫りに。最終的に通信教材のDVDに頼るも、“テレビは1時間まで”の縛りを意識しすぎてテレビの電源を切るなど、完全に教育迷子になってしまうのでした。

同作に対し、読者からは共感の声が集まっている一方で、「子育て13年しかしてないけど、知育とかモンテとか何より子どもの話を聞いてあげることが一番かなと思うよ~。」や「正しいお母さん目指したらあかんでー正しい家庭目指したらアカンのと一緒。楽しいを目指そうねー」など。教育迷子さんたちを導くようなコメントも寄せられています。

そんな教育迷子時代について、作者の真船佳奈さんに話を聞きました。

■子育てにフルコミット前提の本が多くて…

ー「教育ママ」への変身を試みる中で、最初に感じた不安や焦りには、どのようなものがありましたか?

私が子供だった時代は子供も3人兄弟などが普通で、親としても「全員元気に育ってくれたらいいな~」くらいの感じだったような気がするのですが。令和って子供も少なくて、「小皇帝」ではないけれど、少ない子供をきちんと育てるのが親の務め!みたいな風潮が強まっている気もしておりまして…。

特に都内に住んでいると「お受験」「早期教育」などのワードを聞く機会も多く、「お受験・・・?!」とビビり倒しておりました。自分の選択や与える教育によって、子供の将来が変わってしまうの!?という焦りに襲われていました。

ー教育本の情報を頼りに実践しようとした結果、特に思い通りにいかなかったエピソードは?

いくつか本を読んだのですが、実践するには子育てにフルコミット前提の本が多くて…。「3歳になるまでは親の時間を全部子供に使いましょう!」みたいな本もあり。「これを全部実践したら、私の時間って一ミリもないじゃん!」と思いつつも教育本を読めば読むほど「子供のために尽くすことができないと親失格」という考えにとらわれ、追い詰められながら手作りおもちゃ(※完全にゴミ)を作り続けておりました。

ー旦那様の「一切必要ないと思うけど…」という言葉に対して、どのように感じられましたか?

夫はすごく芯のある人間なので、どんな情報を聞いても揺らがないのがすごいなあと思いました。一方で私はいろんな情報に常に振り回されているような人間なので、「夫のいうことのほうが大体正しいしなあ…」という気持ち4割、「夫の言うことを聞いて息子の将来の選択肢が制限されてしまったらどうしよう!?」という気持ちが6割でした。

「命を守らなきゃ!」という新生児期の不安を超えて、また新しい不安に出会ってかなりナイーブになっていたのかなと思います。

ー「教育迷子」になったと感じた際、どのように気持ちの切り替えをしていましたか?

結局最終的には、信頼できる育児のパートナー(保育士さんだったり、シッターさんだったり)に相談しつつ、「この子が人生を通して、好きだ!と思うことを見つけられたらそれでいいな」と思うようになりました。

ー同じように「教育迷子」になっている親御さんに向けメッセージを。

赤ちゃんという新メンバーを抱えて、親は本当に不安や心配が尽きないと思います。私も一通り「親としてこの子に何をしてあげられるのか…」と悩みましたが、子供が3歳になった今、「子供は子供で自分で成長する力を持っている!」と思えるようになりました。

逆に言うと親ができることって本当に限られていて、大事なのは各家庭によって方針は違うと思いますが、我が家は「子供がやりたいことを忍耐強く見守る」ことだなあ、というところで夫婦一致しています。

最初は不安化と思いますが、子供は思ったよりも自分で学んで成長して生きているので、いろいろな情報に焦らず、各家庭で最良の方針を見つけられたらいいのかなと思います。

(海川 まこと/漫画収集家)