「小さな繁殖引退犬を迎えました。名前は“ひより”」
そんな投稿が、多くの人の心を打った。
投稿したのは、柴犬2匹とトイプードル1匹と暮らす飼い主のk.k.さん(@kohashiba)。彼女が迎えたのは、体重4.44キロの小さな柴犬・ひよりちゃん。後ろ足は脱臼したまま固まり、普通に歩くことができない。それでも、k.k.さんはためらわなかった。
「ひよりには不自由があれど、私がひよりを迎えるに際し、後ろ足が動かないことは気になりませんでした」
■「今だからこそ迎えたい」介護と向き合う日々の中で決めた新たな一歩
「人の介護と犬の介護が重なり、無理じゃないかと言われるかも。でも、“今だからこそ”迎えたいと思ったんです」
k.k.さんは現在、家族の介護をしながら、13歳の愛犬・こはるちゃん、保護犬の右京くん(うーちゃん、トイプードル)たちと暮らしている。
そんな中で、3年間気になっていた犬「ひよりちゃん」を迎えた。
「このまま年をとって、やりたいことができなくなる前に、“今”できることをしたいと思いました」
■繁殖犬として過ごした日々、そして初めての「外の世界」
ひよりちゃんは、繁殖犬として長年ケージの中で暮らし、何度も帝王切開で出産を繰り返してきたという。お腹の皮膚は薄く、体は小さい。足も固まったままで、まともに歩けない。
それでも、k.k.さんは笑って言う。
「足よりも、心を取り戻してほしかった。かわいそうな子にはしたくない。“幸せな子”にしたいんです」
■「車椅子の調整へ」歩く姿を見て涙した日
ひよりちゃんを迎えた翌日、k.k.さんは、保護犬右京くんの車椅子を作ってもらった「はな工房」に連絡を入れた。
「うーちゃんの車椅子調整に行くついでに、ひよりの車椅子の相談もしようと思って」
はな工房のオーナー夫婦は、これまでにも何頭もの保護犬をサポートしてきた。「少しでも早く歩かせてあげたい」と、驚くほどのスピードで製作を進めてくれたという。
「“えっ、もうできたんですか!?”ってびっくりしました。早く乗せてあげたいというお気持ちが本当にうれしかったです」
そして、初めて車椅子で立ったひよりちゃんの姿を見たとき…k.k.さんの目には涙がにじんだ。
「保護団体では歩く姿を見られませんでした。だから、あの時“歩いた”だけで、もう十分でした。頑張って立ってくれて、本当にうれしかった」
■「足は治らなくても、この子の“生き方”として受け入れる」
整形外科専門医による診断では、「パテラ(膝蓋骨脱臼・しつがいこつだっきゅう)」の最重度・グレード4を超えている状態だった。「大腿骨(だいたいこつ)も脛骨(けいこつ)も歪み、筋肉も機能していない。今後筋肉もつくこともない」と言われた。
しかし、k.k.さんは前を向く。
「奇跡を起こしてあげることはできません。でも、このままの姿で生きるのが“ひよりの個性”だと思っています。せっかく出てこられたんだから、楽しく暮らしてほしい」
■少しずつ“笑顔”を取り戻して
最初は無表情だったひよりちゃん。ケージの外の世界を知らず、人が怖くて震えることもあった。
それが、数日後には一人で楽しそうに走り回った。
「5日目で走り回るようになって“声”が出たんです。もううれしくて身悶えしました。外を見るひよりが、何か楽しそうで。車椅子を使わず、あのまま走り回ってもオッケーだとドクターのおすみつきも出ました」
やがて、写真を撮っても逃げなくなり、少しずつ表情が柔らかくなっていった。
「ひよりの伸び代は、新喜劇のゴムより伸びるかも(笑)。心が元気でよかったです」
■「繁殖犬じゃなくなった日」 避妊手術を終えて
避妊手術を終えた10月のある日、k.k.さんは“ようやくこの子は繁殖犬じゃなくなった”と感じたという。
「避妊手術をすると毎回思うんです。“これで第二の犬生が始まる”って。人間の都合で使われてきた命が、やっと自由になれた。ひよりにもその日が来て、本当にうれしかったです」
■「やれることがある幸せ」“ひよりの笑顔”がくれる希望
ひよりちゃんはいま、姉犬のこはるちゃん、右京くんと一緒に穏やかな日々を過ごしている。
「やれることがある幸せ。やってあげられる幸せ。それが私の生きる力です」
動けない足でも、歩けるようになった車椅子でも、彼女の世界には確かな“光”が生まれた。
「幸せにします。そのために迎えた子ですから」
(まいどなニュース特約・渡辺 晴子)

























