40代のAさんが、元夫のBさんと離婚届を提出してから2年が経ちます。しかしふたりは今も同じ家で暮らしていました。高校生の娘の精神的な負担と、Aさんにすぐ家を出る経済的余裕がなかったことから、世間には離婚を隠し「同居人」として生活を続けてきたのです。週末には3人で食卓を囲むこともある、傍目には普通の家族でした。
AさんとBさんはお互いの価値観の違いから離婚を選び、恋愛感情も消え失せています。しかし、誰よりもお互いを熟知する「良き隣人」として暮らしていました。ただ最近、Bさんの行動に明らかな変化が現れました。スマートフォンを肌身離さず持ち歩き、時折、知らない甘い香水の匂いをさせて帰宅するようになります。
そして決定的な出来事は、ある夜に訪れました。リビングで眠ってしまったBさんのスマートフォンに、見知らぬ女性から親密なメッセージが届いたのが見えてしまいました。そこでは、Bさんが彼女に対しAさんのことを「同居している姉」だと嘘をついていたのです。
法的には他人であり、Bさんが誰と恋愛しようと自由なのは分かっています。しかし、娘のために続けてきたこの生活そのものを踏みにじられたような裏切りに、Aさんは怒りと悲しみで心が張り裂けそうでした。離婚後の同居相手に対する、この裏切りは許されるのでしょうか。まこと法律事務所の北村真一さんに聞きました。
■同居の元夫に慰謝料は請求できる?
ー同居をしていても離婚届を提出した時点で、法的な夫婦関係は終了していますか
はい、その認識で間違いありません。日本の法律では、市区町村の役所に提出された離婚届が受理された時点で、法律上の婚姻関係は完全に終了します。戸籍上も夫婦ではなくなり、お互いに扶養の義務などもなくなります。
ー元夫が新しい彼女を作っても、不貞行為にはあたらないのでしょうか
法律上の「不貞行為」にはあたりません。不貞行為とは、法律上の婚姻関係にある配偶者以外の人と自由な意思で性的関係を持つことを指します。
AさんとBさんはすでに離婚が成立し、法律上の夫婦ではないため、Bさんが誰と恋愛関係になろうとも、法的な意味での「不貞行為」とはならず、それを理由に慰謝料を請求することはできません。
ー「離婚後同居」という事実をもって、「事実上の婚姻関係(内縁)が継続していた」と主張できますか
難しいでしょう。「事実上の婚姻関係」、いわゆる内縁関係が認められるためには、当事者双方に「婚姻の意思」があることと、夫婦としての「共同生活」の実態があることの2つの要件が必要となります。
このケースでは、たしかに同居を続け、週末に食事を共にするなど「共同生活」に近い実態はあったかもしれません。しかし、最も重要な「婚姻の意思」について、お二人は自らの意思で離婚届を提出しています。これは、「法律上の婚姻関係を解消する意思があった」ことの最も強力な証拠となります。
さらに、「娘の精神的な負担」や「経済的な事情」といった同居の理由が明確であること、お互いを「同居人」として生活を続けていたという事実も、夫婦として関係を継続する「婚姻の意思」があったことを否定する要素となるでしょう。
これらのことから、裁判所に「内縁関係にあった」と認めてもらうことは困難です。そして、内縁関係が認められない以上、「内縁関係の不当な破棄」や「内縁関係における不貞行為」を理由とした慰謝料の請求も難しくなります。
◆北村真一(きたむら・しんいち)弁護士
「きたべん」の愛称で大阪府茨木市で知らない人がいないという声もあがる大人気ローカル弁護士。猫探しからM&Aまで幅広く取り扱う。
(まいどなニュース特約・長澤 芳子)

























