トランプ氏/americanspirit(c)123RF.COM
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 2026年1月、米国が南米ベネズエラに対し、ニコラス・マドゥロ大統領の拘束を目的とした軍事介入に踏み切った。この電撃的な軍事行動は、単なる一国への内政干渉にとどまらず、第2次トランプ政権が重視する「西半球における圧倒的な主導権」の奪還を象徴する出来事であった。

 なぜ、このタイミングでトランプ政権は直接的な武力行使を選択したのか。その背景には、麻薬対策、エネルギー戦略、そして地政学という三つの複雑な要因が重層的に絡み合っている。

■フェンタニル危機を強調し世論を味方に

 第一の決定的な要因は、マドゥロ政権を「麻薬テロ組織」と断定した安全保障上の大義名分である。米国政府は長年、ベネズエラ高官が国際的な麻薬密輸に関与していると糾弾してきたが、今回の介入では特に「フェンタニル危機」が正当化の根拠として強調された。

 米国内で年間数万人もの死者を出している合成麻薬フェンタニルの密輸ルートにベネズエラが深く関与しているという見方は、米国民の世論を味方につける強力な武器となった。すでに米国内で起訴されていたマドゥロ氏の身柄拘束は、国際法上の主権侵害という批判を「法の執行」という論理で塗り替える狙いがあった。これは1989年のパナマ侵攻において、麻薬密輸容疑でノリエガ将軍を拘束した際の手法を今になって蘇らせた形といえる。

 第二に、世界最大の石油埋蔵量を巡る経済的利害が挙げられる。ベネズエラは地質学的には比類なき資源大国でありながら、長年の放漫経営と経済制裁によって、その石油インフラは崩壊の危機に瀕していた。トランプ政権は、低迷するベネズエラの産油能力を米国の資本と技術によって再建し、世界のエネルギー市場における米国の影響力を盤石にすることを意図したのである。かつてマドゥロ政権によって没収された米企業の資産回収や、米石油大手によるインフラ運営の再開は、米国にとって資源の奪還であると同時に、自国の経済的権益を最優先する実利的な選択であった。

■「モンロー主義」の復活が根底に

 そして、これらの根底に流れているのが、1823年に提唱された「モンロー主義」の復活である。米国は自国の「裏庭」とも称されるラテンアメリカにおいて、ロシア、中国、イラン、キューバといった対抗勢力がベネズエラを足がかりに浸食してくる事態を、自国の安全保障に対する直接的な脅威とみなした。独裁体制を打倒し、親米的な政権への移行を強行することは、形骸化した民主主義の回復を謳いつつも、本質的には冷戦期を彷彿とさせる勢力圏の再編を意味している。

 今回の軍事介入は、対話や経済制裁という段階的な外交手段が限界に達したことを示し、米国が自国の利益を阻む「厄介事」を軍事力という直接的な手段で破壊したことを知らしめた。今回の軍事介入は、国際秩序の再構築を狙う大国による、極めて強硬で現実的な意思表示だったと言えよう。

◆和田大樹(わだ・だいじゅ)CEO, Strategic Intelligence Inc. / 代表取締役社長 専門分野は国際安全保障論、国際テロリズム論、経済安全保障、地政学リスクなど。海外研究機関や国内の大学で特任教授や非常勤講師を兼務。また、国内外の企業に対して地政学リスク分野で情報提供を行うインテリジェンス会社の代表を務める。