どんなに楽しんでいるつもりでも表情に出せず…(鹿古さん提供)
どんなに楽しんでいるつもりでも表情に出せず…(鹿古さん提供)

人は、表情だけでは本当の想いははかりしれないようです。ビッコミ(小学館)にて『文ゆかば』(西原梨花名義にて執筆)を連載中の、鹿古さんの作品『無表情な男の子』では、どんなときでも無表情な少年の思いが描かれています。同作はpixivに投稿されると、約3000のいいねが寄せられました。

ある日、音楽の授業でミュージカル鑑賞がおこなわれます。クラスの友人が涙を流すなか、主人公・吉川は平然とした顔で友人にティッシュを渡します。授業終了後、友人はふと吉川の感想文を見てみると、ものすごい文字数の感想を書き上げていたのです。吉川曰く作品に感動していたようですが、表情をつくるのが苦手なため涙を流せませんでした。

道路で子どもが転倒したときも、吉川は「大丈夫?」と微笑んだつもりでしたが、逆に怖がられ物を投げつけられてしまいます。

そんななか、クラスメイトの表情豊かな女子・佐々木は、同じ委員会の男子に思いを寄せていました。しかし佐々木は、その男子がクラスの女子と付き合っていることを知り、思わず表情に出してしまいます。佐々木は、そのことでクラスの女子から悪口を言われ、1人階段で涙を流していました。

その一部始終を見ていた吉川は、佐々木のもとにやってきてハンカチを手渡します。そしてものすごい長文で佐々木の長所を訴え、吉川は続けて「つまり…言いたいことは 俺に表情の作り方を教えてほしいんだ」と言いました。

必死にしゃべる吉川に、佐々木は思わず大声で笑ってしまいます。佐々木は今まで吉川をクールな人だと思っていましたが、吉川の姿に「見てみたいかも 吉川くんが笑うところ」と思いました。

それから毎日、佐々木と吉川の写真撮影練習が始まりますが、1週間撮影しても一向に吉川の表情が変わる気配がありません。吉川自身もここまで表情を出せないとは思っておらず、またなぜ表情が出せないのかよく分からないようです。

2人がそれぞれの帰路に着こうとしたとき、佐々木は用水路のカバーを踏み抜いてしまいました。佐々木は足をひねったようで、動けなくなってしまいます。佐々木は「親に迎えに来てもらえるか聞いてみるから!」と電話をかけようとしますが、吉川は思わず佐々木の手を止めてしまいました。

吉川は、無意識に親に迷惑をかけてはいけないと考えてしまったのです。結局、吉川は佐々木をおぶって自宅まで送ることにしました。その後吉川は、仲睦まじい佐々木の母や兄弟たちの姿を見て、「俺あんな風になりたかったんだなぁ」と思いを巡らせます。

佐々木の脚の処置が終わったあと、吉川は車で自宅まで送ってもらえることになりました。吉川の自宅前に到着したあと、佐々木はなぜ必死に電話を止めようとしたのかを尋ねます。

吉川は、「俺だったら絶対親に助けを求めない」という自分の基準でつい動いてしまったと明かしました。続けて、今まで自分の両親とはほとんど話してこなかったこと、参観日も「父母が押し付け合ってケンカするだけだから」と言わなかったと話します。

ふと吉川は、佐々木の家のあてつけみたいになってしまったと思い、そそくさと自宅マンションへと入ります。しかし階段を駆け上った瞬間、吉川は大きく転倒し鼻から出血してしまいました。佐々木は、吉川の両親への気遣いに対して、「やっぱり吉川くんは優しいね」「たまには頑張らなくて良いんだよ」と近寄ります。

しかし吉川は「俺はずっと逃げてきたんだ」「俺が表情を作れなくなったのも逃げ続けてきた罰なんだ!」と訴えます。そんな吉川に対し、佐々木は「だったらどうしてそんなに辛そうなの!?逃げるって楽になることじゃないの!?」と涙ながらに訴えました。

「逃げたなんて言って自分を責めないで その顔は傷ついてきた証でしょ?」と言われた吉川は、自分は本当は泣きたかったんだと気付きます。

「俺も笑えるようになりたい」そう強く思った吉川は、相変わらず口論をする両親に割って入り「俺の話を聞いてほしいんだ」と訴えました。

その後吉川は、元々三者面談を叔母に頼んでいましたが、親に頼んで来てもらえることになったそうです。そしていつものように、佐々木に写真撮影をしてもらいます。佐々木に「笑って笑ってー全力でー」と言われた吉川は、心からの笑顔を出せたのでした。

読者からは「吉川くんのいい笑顔に涙が出た…」「自分の気持ちを外に出せたんだね」などの声が挙がっています。そこで、作者の鹿古さんに話を聞きました。

■『笑顔』はこれからの未来を表しているのかもしれない

-『無表情な男の子』を創作したきっかけについて教えてください

この作品を作る前の数年間、色んな編集部と打ち合わせをしていたんですが、全然上手くいかなくて自分は何が描きたいのか分からない時期がありました。一度好きに描いてみようと思って、自分が好きな人間って何だろうって考えた時に喜怒哀楽がハッキリしてる人だなぁとなり、そういう経緯から漫画を描きました。

-作中でお気に入りのポイントや、とくに注目してほしいポイントがあれば教えてください

1ページにひとつは目を引く構図や表現、表情を入れるように工夫して描きました。

吉川くんの家と、佐々木さんの家はどちらも散らかっているんですが、その描き分けをするのが楽しくて気に入っています。

-最後の吉川くんの笑顔は、どのような心境が現れた顔だとご想像しますか?

本人の心理としては安堵ですが、物語的にはこれからの未来のようなものを表しているのかなと思います。

(海川 まこと/漫画収集家)