中学受験は、子どもだけでなく親にとっても長い長い戦いです。受験期間が終わった瞬間、ほっとする人もいれば、気持ちの整理が追いつかないまま日常に戻ろうとする人もいます。そんな時期に届く何気ない一言が、思いのほか重く感じられることがあります。特に、結果を尋ねる言葉は、送り手の想像以上に受け手の胸に響くものです。
■連日の結果発表に耐えた親子の数日間
都内在住のTさん(40代)は、今年、中学受験を終えたばかりの息子を持つ母親です。
受験本番は、想像していた以上に厳しいものでした。
試験当日までは「本番で力を出せれば」と前向きに考えていたものの、力試しとして受験した埼玉県の私立中学の合格発表で画面に並んだのは、無情にも「不合格」の文字でした。「2回受験できるから。2回目は加点が付くから」と励ましながら迎えた次の発表も、同じ結果でした。
それから数週間、東京の私立中学受験日までの間、Tさんはまともに食事も喉を通らない日々が続きました。
いよいよ東京受験解禁日。Tさんの息子は1校の中学を熱望していたため、もし合格できなかったら公立中学に進学すると割り切っていました。模試では常にA判定。塾の先生からは特待合格も狙えるのではないかとお墨付きをいただいていました。合格を目指し、5日間すべての日程に出願していました。午前と午後にそれぞれ試験、夜に結果発表という日が続きました。
画面の前で深呼吸をしてから結果ページを開く。
グレーの画面に表示されたのは、「不合格」の文字でした。
結果を見るたびに、息子は無言になり、Tさんもどう声をかけていいか分からなくなりました。
親子で顔を見合わせながらも、泣くわけにはいかないという空気が漂います。次の日の試験が待っているからです。
「親のほうが泣きたくても、子どもの前では泣けないのです。まだ次があると信じていました」Tさんはそう語りながら、辛い気持ちで息子の夕食を用意していたと振り返ります。
しかし最終日、最後の合格発表画面には桜は咲きませんでした。繰り上げ合格の連絡もなく、受験は静かに終わりました。
■受験が終わった直後のLINE
ようやく一区切りつき、Tさんが気持ちを整理しようとしていた数日後のことでした。
スマートフォンに、ママ友からのLINEが届きました。
その相手は、習い事が同じ保護者でした。志望校や塾は違えど、中学受験をする仲間として情報交換をしていました。
メッセージは、こんな内容でした。
「受験どうだった?うちは、私立○○中学に進学することになったよ」
「そろそろ落ち着いたころかと思って」
とても普通の言葉です。悪意もないことは、Tさんにも分かっていました。
それでも、その文章を見た瞬間、Tさんは画面を閉じてしまったといいます。
「まだ結果を言葉にする気持ちになれませんでした。受験が終わったばかりの時期は、思った以上に心が疲れているのです」
返信を考えても、適切な言葉が浮かびません。
「残念でした」と書けば、現実を改めて言葉にすることになります。「第一志望はだめでした」と書けば、どこまで説明すべきか迷います。
結局、数日間返信ができませんでした。
■悪気のない一言が重くなる理由
受験を経験した保護者の多くが口にするのは、「結果を聞くタイミングの難しさ」です。
合格した家庭にとっては、受験が終われば話題にできる出来事になります。
しかし、そうではなかった家庭にとっては、まだ整理がついていない出来事であることも少なくありません。
特に中学受験の場合、数日間にわたり結果発表が続き、親子で感情を抑えながら日程をこなすことになります。そのため、受験が終わった直後は、気持ちが追いついていないことも多いのです。
Tさんはこう振り返ります。
「相手に悪気はないのだと思います。ただ、受験直後は、結果を聞かれること自体が少しつらい時期でもあります」
その後、Tさんは落ち着いてから返信をしました。ママ友は「そうだったんですね。お疲れさまでした」と返してくれたといいます。
何気ない言葉でも、タイミングによっては重く響くことがあります。
受験の結果を尋ねる一言は、相手が話し出すまで少し待つ。そんな配慮が、思いやりになる場面もあるのかもしれません。
(まいどなニュース特約・松波 穂乃圭)
























