30歳の澤井友美さん(仮名)は、正社員の事務員として働いています。同居する30歳で会社員の夫である健一さんが趣味にしているラグビーの試合中にけがをし、友美さんの日常は一変しました。健一さんは脊髄損傷と診断され、下半身にまひが残りました。これからは車いすでの生活になります。健一さんは現在リハビリテーション病院に入院していますが、退院の時期が近づくにつれ友美さんの不安は大きくなっています。自宅の玄関や浴室には段差が多く、友美さん一人の介助で安全に暮らせるのか分かりません。健一さんが元の職場に復帰できる見通しは立っておらず、今後の医療費や生活費をどうすればよいのでしょうか。
家族を支える立場の人が病気やけがで障害者になったとき、これからの生活をどのように組み立てていけばよいのでしょうか。退院後の見えない生活に対する不安は、家族だけで抱え込めるものではありません。退院前の準備と適切な相談先につながることで、生活の基盤を整え、少しでも不安を払拭していきましょう。
■突然の障害による生活の激変と福祉サービスへの移行という課題
病気や事故によって中途障害を持つことになった場合、退院後の生活環境の整備や介護負担が家族に重くのしかかります。これは家族の努力不足ではなく、医療から地域生活へ移行する際、適切な支援情報が届きにくいという社会構造上の課題が存在しているためです。
障害者総合支援法に基づき、日常生活を支えるさまざまなサービスが用意されています。しかし退院直後の時期は、どの窓口でどのような手続きをすればよいのか分かりにくく、支援の空白期間が生じやすい時期です。突然の障害受容と生活の再建には、専門職による早期からの介入と継続的な支援が必要になります。家族だけで問題を解決しようとせず、適切な制度を利用できる体制を整えることが重要です。
■医療ソーシャルワーカーに相談し生活の課題を整理する
友美さんは見通しの立たない生活への不安を、病院に配置されている医療ソーシャルワーカーに相談しました。医療ソーシャルワーカーは、患者や家族が抱える経済的、心理的、社会的な問題の解決を支援する福祉の専門職です。
相談を受けた医療ソーシャルワーカーは、住宅環境の調整、退院後の介助体制、そして今後の収入と医療費の支払いについて、退院後の課題を一つずつ整理しました。友美さんは自分の不安が具体的な課題として可視化されたことで、次に何をすべきかが少しずつ理解できるようになりました。
◆市区町村の窓口とつながり必要な支援を確保する
・身体障害者手帳の交付申請
退院後の生活を支えるため、市区町村の障害福祉担当窓口での手続きが必要です。友美さんは医療ソーシャルワーカーの助言を受け、窓口で身体障害者手帳の交付申請を行いました。手帳を取得することでさまざまな支援制度を利用する基礎が整います。
・障害福祉サービス利用の手続き
手帳の交付に合わせて、障害福祉サービスを利用するための申請も行いました。自宅にヘルパーが訪問して入浴や排泄の介助を行う居宅介護などのサービスを利用するためです。このとき相談支援専門員という地域の専門職が、健一さんの状態や家族の状況に合わせたサービス等利用計画を作成しました。
・住宅改修費支給の手続き
さらに自宅の段差解消や手すりの設置にあたり、日常生活用具給付等事業における住宅改修費の支給制度を利用する手続きを進めました。市区町村によって詳細は異なりますが、費用の約1割ほどの負担で改修工事ができる場合が多いです。給付には上限額が設定されている場合が多いため、工事の前に窓口へ申請して確認することが大切です。
◆医療費の軽減と生活を支える障害年金の手続き
・自立支援医療制度の利用申請
退院後も続く通院やリハビリテーションの費用については、自立支援医療制度の利用を申請しました。これは指定された医療機関において、対象となる障害の治療にかかる医療費の自己負担割合を原則1割に軽減する制度です。世帯の所得に応じて1カ月あたりの負担上限額が設定されるため、長期的な医療費の不安を和らげることができます。
・障害年金の申請
友美さんは今後の家計の心配を医療ソーシャルワーカーに相談したところ、障害年金について説明を受けました。障害年金は、病気やけがによって生活や仕事に制限を受けるようになった場合に支給される公的な年金で、初診日から1年6カ月を過ぎれば、申請可能です。そのため、夫が入院中に申請はできないけれど時期がきたときにすぐに手続きができるよう、障害年金の受給資格などを確認するために、年金事務所へ相談に行きました。障害年金は、初診日において加入していた年金制度や障害の程度によって、受給できる金額が異なります。障害年金は働きながらでも要件を満たしていれば受給できる可能性があります。一定の収入があるからといって最初から諦める必要はありません。
■相談することが出発点
友美さんは夫の入院中に医療ソーシャルワーカーを起点として、市区町村の窓口や相談支援専門員とつながりました。ヘルパーの介入や住宅改修が進み、医療費の軽減制度を進めることで、先の見えなかった退院後の生活に少しずつ安心感を持てるようになりました。そして障害年金を申請することで金銭的な不安も解消できることを知りました。突然の事故による生活の変化は大きな困難を伴いますが、適切な支援とつながることで一つずつ解決していくことができます。
退院後の生活に不安を感じたら、まずは入院中の病院にいる医療ソーシャルワーカーや、お住まいの市区町村の障害福祉担当窓口にいる担当職員へご相談ください。地域や個人の状況によって利用できる制度の詳細は異なるため、具体的な手続きについては各種窓口の専門職員に確認することが大切です。
【出典】
▽厚生労働省/自立支援医療制度の概要
▽厚生労働省/障害者総合支援法が施行されました
▽厚生労働省「医療ソーシャルワーカー業務指針の全部改正について」
▽厚生労働省「サービスの利用手続き」
▽厚生労働省「自立支援医療制度の概要」
▽日本年金機構「障害年金」
【監修】勝水健吾(かつみず・けんご)社会福祉士、産業カウンセラー、理学療法士 身体障がい者(HIV感染症)、精神障がい者(双極症2型)、セクシャルマイノリティ(ゲイ)の当事者。現在はオンラインカウンセリングサービスを提供する「勇者の部屋」代表。
(まいどなニュース/もくもくライターズ)
























