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(5)家計低迷 狂った人生設計 回復遠く
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 震災は暮らしを直撃した。いったい、どの程度の傷跡を家計にしるしたのか。それを示すデータがある。

 コープこうべの研究グループが昨年、被災地域を中心に行った「震災とくらしについてのアンケート」。二百九十三人中、四分の一が「前年と比べ世帯収入が減った」と回答している。

 一方で、支出では住居費が急増。「住まいに関する予定外の出費があった」という人は、七七%にも達する。これからの暮らしは「非常に厳しい」「厳しい」「少し厳しい」を合わせて半数。「生活設計を変更した」も三割にのぼった。

 「震災の被害自体は軽くても、自営業世帯などは震災で売り上げが落ち、家計への影響は大きい」と、コープこうべ・生協研究機構は分析する。

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 神戸市東灘区の主婦(55)は、今年の家計簿の収入の項に大きく「?」と書いた。つけ始めて十四年。初めての経験だ。

 震災直前の一昨年十二月、夫(56)は独立に向け、会社を退職したばかりだった。市内に事務所を借り、すでに手付金も支払っていた。定年後を考えた人生設計は、すべて狂った。

 夫は地震で、足にけがをした。目の病気が悪化し、入院もした。仕事を探してはいるが、健康でない体と、年齢の壁が立ちはだかる。収入のめどは立たない。

 それでも、お金は出ていく。半壊したマンションの補修費、大阪の避難先の家賃など、震災後、臨時支出が相次いだ。

 最も大きな負担になっているのが、月十二万円を超えるマンションの家賃だ。一カ月の生活費の半分を占める。公営住宅を申し込んだが、曲がりなりにも住む場所があり、高齢者でもない自分たちに、入居のチャンスは巡ってこない。

 マイカーを手放した。電気代やガス代の口座引き落としもやめた。自分の手で払い、「金額の重み」を確かめるためだ。電話代は、月五千円までと決め、遠方には手紙を出す。

 「貯蓄で生活できるのは、あと二年。年金生活までたどりつけるのか、不安でいっぱい」。日々、家計簿とのにらめっこが続く。

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 被災地の家計の苦しさは、神戸市東灘区で持ち帰り寿司(すし)店を経営する島克司さん(39)も日々、仕事の中で実感するという。

 震災の三カ月前に開いた二号店を、今年二月で閉めた。店は二つとも残ったものの、周囲の家がつぶれ、客は激減した。以来、街に残った人も、戻り始めた人も財布のヒモが固い。にぎりの注文が減り、単価の安い巻き寿司などが増えた。二号店の売り上げは、震災前の二割程度に落ちた。閉めるほかなかった。

 今は、JR摂津本山駅近くの一号店一本に絞り、PR用のチラシ配りや配達にも力を入れる。

 「以前はお客さんの半分以上を占めていた主婦層が、今は一割くらい。夜遅く来る単身赴任のサラリーマンやOLが増えているのが救い」

 人々が戻り、家計の力が回復する。商売が立ち直り、地域が息を吹き返す。街が生き返るそのサイクルは、まだ動く気配がない。

1996/3/9
 

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