「融資にはもう期待できん。自力で足場を固めるしかないで」
二月末、神戸市長田区で食料品を扱う嶋田雄二さん(51)は、配達に出る長男(26)に話しかけた。
相次いだ兵庫県・市の新年度予算の発表。しかし、盛り込まれた融資制度は新しい産業の育成や集団化への支援が中心で、あてが外れる思いだった。震災で店は壊れ、いまプレハブ事務所。地域の立ち直りも遅い。商売の基盤は崩れたままだ。
地震の後、再建資金の手当てに追われる日が続いた。「一千万円あれば」と、県・市が新設した復旧融資を求めた。「担保・保証人なしで千五百万円まで」という。しかし、すでに受けている融資がネックになり、兵庫県信用保証協会の審査ではねられた。
「これまで以上の返済能力があるか、といわれたって、店を開けなければ返せるものも返せんよ」
以来、商売のエリアを広げ、屋台村を始めて資金をためてはいる。だが、見通しは立たない。
「融資はいわば血液。満足に仕事ができんこの緊急のときに、どうして輸血してくれないんだろう」
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「九一・九%」という数字がある。昨年七月で打ち切られた県・市の復旧融資への申し込みに対し、貸し出しを行った実績だ。三万三千件、総額は四千二百億円にのぼる。
「当面の役割は十分に果たした。その後のニーズは政府系金融機関がカバーしている」(兵庫県金融課)
お金を借りる側と、貸す側のこのギャップは、なぜなのか。
大きな要因が「信用保証制度」とされる。担保も保証人もない場合、同協会の「信用保証付き」が条件になる。しかし、嶋田さんのように多くはすでに借金を抱え、この先の事業計画もたてにくい。
「申し込む前に無理と言われるなど、初めからあきらめている層は多い。これだけの大災害では、既存の枠を超えた制度がいるのではないか」と、被災業者の調査を続ける森靖雄・日本福祉大学教授。
対して、兵庫県信用保証協会の山添実・企画部長は「保証枠を広げよ、というなら、さらに国の財政支援がないと無理だ」という。
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宮入興一・長崎大学教授は、国の予算(一九九五年度二次補正まで)を、分野別に区分している。
インフラ整備 二八%▽港湾機能回復 一五%▽市街地整備等 四%・と、産業基盤の復旧で半分を占めた。次いで、仮設住宅や公的住宅の供給、災害弔慰金、防災対策などで三二%。
「国の姿勢は公共施設の復旧に偏りすぎ、生活や営業の再建は遅れがちになっている」と、宮入教授は指摘する。
市街地から更地がなかなか減らない。一方で、高速道路の復旧が思わぬ速さで進む。「土建国家」の風景が、被災地で続く。
1996/3/6