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(4)代理発令 想定なき爆発対処一任
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 災害対策基本法は、市町村長が避難の立ち退きを住民らに勧告できると規定する。しかし、十年前の一月十八日は、東灘区長だった金治(かなじ)勉さん(69)が、市長の“代理”で七万二千人に避難勧告を発令した。

 金治さんが、エム・シー・ターミナル神戸事業所での液化石油ガス(LPG)漏れの報告を受けたのは、震災二日目の午前零時すぎ。区役所隣の東灘消防署から、当時の署長西村幸造さん(70)らが駆け込んできた。

 「爆発するかもしれない。予測はつかないが、区役所も危ない」

 停電した庁舎で、区幹部や東灘署刑事官だった松田暢生さん(59)を交え、断続的に対策会議を開いた。がけ崩れなどの避難計画はあっても、LPGタンクの漏えいは想定外。ろうそくの明かりに困惑の表情が並んだ。

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 会議の記録はない。私たちは、会議に居合わせた八人に取材した。

 まず、夜間の避難勧告発令は検討から除外されたという。停電の闇の中での混乱を恐れた。

 消防署にLPG爆発のデータはなかった。避難勧告について、元署長の西村さんは「設備を造った事業所の判断を優先した」と語る。別の消防署幹部は「風や気温の条件を無視してだが、あの量のガスが一律に拡散したら、東灘区で収まらないと思った」と明かす。

 内外の事故事例が挙げられたという。そのひとつ、一九八四年にメキシコで起きたLPG基地の爆発は、計七千二百トン分のタンクが次々炎上し、死者・行方不明者が三千人に達したとされる。

 午前五時ごろ、ガス漏れ量が増えた。招集された会議は緊迫した。

 金治さんは消防無線で本庁の市対策本部に二度連絡したという。当時の笹山幸俊市長(80)に相談を試みたが、対策本部の幹部が「市長はそれどころじゃない」と取り次がなかったという。その幹部は、私たちに「やりとりは記憶にない。現場の判断を尊重するよう市長に指示を受けていた」と説明した。

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 金治さんは自らの判断を迫られた。タンクのある東部第二工区と隣の第一工区での避難勧告(第一号)を検討する。車が走るだけでも引火しかねず、着火源の排除を目的とした。午前六時、金治さんは勧告を発令する。

 さらにすぐ、半径約二キロを目安にした範囲に広げる。最悪を考え、一方で「区内で逃げ場を確保できる範囲に」との判断もあった。分かりやすいように道路や川で区切った。「国道2号以南、石屋川以東、十二間道路以西と六甲アイランド」(第二号)で、ファクスを本庁に送り、マスコミへの広報を頼んだ。

 ところが、消防関係には「JR神戸線以南、天上川以西、灘区境以東と六甲アイランド」と範囲が拡大されて伝わった。現在、市の公式記録はこちらを採用している。

 範囲だけでなく、発令時間も混乱した。

2005/1/21
 

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