記事特集
つらい現実から逃げようと絶え間なく酔い、苦悩した被災後の姿はもうない。阪神・淡路大震災のショックからアルコール依存症に陥った清瀬憲一さん(73)=神戸市長田区=は、患者同士の支え合いで飲酒の連鎖を断ち切った。26年前のあの日、開業直前の小売店が全壊し、後に就職した会社も倒産。離婚し、仕事も家も失い、酒を盗んで逮捕もされた。そんな自らの過去を悔い改め、今は兵庫県断酒会の幹部を務める。災害による悲嘆とアルコールが結び付いた時の深刻さを知る身として、更生支援に尽くす。(佐藤健介)
「人生が終わった…」
ひしゃげた建物を前にぼうぜんと立ち尽くした。
経営者となって商売をする夢を追い、25年間勤めた広告代理店を退職。貯金をつぎ込んだ芦屋市内のコンビニエンスストアが、あと1カ月余りでオープンというタイミングで、震災によって全壊した。
悲しみを忘れるため、昼夜を問わず日本酒をあおった。「酔いがさめてくると、『このままではいけない』と自らを奮い立たせようと、また飲んでしまう。自制ができなかった」。再就職先も雇い止めされ、ストレスから酒浸りは続いた。
事態が悪化したのは十数年前。酔って妻に暴力を振るったことで離婚し、神戸市内の親類宅に身を寄せた。だが酒は止まらずに追い出され、ホームレスに。地下街などで寝泊まりし、公園の噴水を風呂代わりにする生活は約1年に及んだ。食費を息子にせびり、酒も買った。万引を繰り返し、逮捕もされた。
「酒、酒、酒…。頭も体も酒に支配された。震災で命が助かったことを喜ぶべきなのに」と悔いた。「家族の絆を取り戻せる望みが少しでもあるのなら」と思い、2006年に精神科で入院治療を始め、退院後は断酒会に加わった。
参加者から家庭内暴力や失職など飲酒による深刻なトラブルと、依存を断ち切った経緯を聞くことが励みになった。自身の体験を話すと「震災を乗り越えようとする姿に勇気をもらった」と反響も受けた。「立ち直りに必要なのは仲間との語り合い」と実感した。
今は県断酒会理事となり、当事者支援の中核を担う。酒害相談では「依存は性格ではなく病気。人間性を否定せず、家族は『心配しているよ』という言葉掛けを」とアドバイス。専門医療機関や当事者グループの会合の案内にも当たる。
「災害が起きると一寸先は闇。自分は酒におぼれ、人生が狂った」。東日本大震災など被災地で依存症の問題が報じられるたび、胸が痛む。
「避難所でも、仮設住宅でも、もちろん平時の地域でも、誰かを孤立させないことが大切。人と気軽に語り合い、つながれる関係を築いてほしい。震災とアルコール依存がそれを教えてくれた」。1・17の経験を糧に、これからも苦しむ人々に寄り添う。
■災害後ストレスで飲酒量増/「阪神・淡路」の仮設孤独死の3割依存症
近親者との死別や避難所などでの過酷な環境、自宅損壊や失業といった生活不安…。自然災害のストレスに起因する飲酒問題は、阪神・淡路大震災や東日本大震災、熊本地震などでクローズアップされた。肝障害など合併症の進行や対人関係の悪化をきたし、死に至るリスクもあり、専門医は早期発見の重要性を訴える。
「アルコール依存症は長い経過をたどる慢性疾患だが、被災のストレスや生活の変化は飲酒量増加の引き金になる」。依存症に詳しい精神科医の麻生克郎さん(68)=垂水病院(神戸市西区)副院長=は説く。
阪神・淡路の当時は兵庫県立精神保健福祉センターで勤務し、震災後の心のケアに当たった。断酒会と協力して行った調査では、震災後に県内の断酒会員の約1割が再飲酒していた。
仮設住宅で孤独死した人に関する研究データにも触れ、少なくとも3割程度はアルコール依存症だったと推測。「被災者の中には飲酒問題を持った人が数多くいる。そのことを前提にした災害対策を考えるべき」と強調する。
その上で「早期の生活再建の支援やケアワーカーによる見守りと声掛けは、過量飲酒の予防に役立つ」と指摘。「それでも飲み続ける人は専門医療機関や自助グループにつなぐ必要がある。心のケアのチェック項目に飲酒の量や頻度を加えてもいい」と提案する。
阪神・淡路では、救援物資に酒が含まれていたり、被災地で国税庁が臨時の酒販免許を発行したりした事例を挙げ、「災害ストレスを飲酒で緩和することを推奨すべきではない」と主張。「もしも被災した神戸で欧米並みの厳しいアルコール規制があれば、孤独死はもう少し少なかったかもしれない」と話す。(佐藤健介)
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