記事特集
災害時に農地を避難場所や仮設住宅の用地などに活用する「防災協力農地制度」が、三大都市圏で広がる。戦後初めて市街地を襲った1995年の阪神・淡路大震災を教訓に、首都圏を中心に広がり、現在は70以上の自治体が取り組む。兵庫県内では昨秋、伊丹市で協力農地が初めて誕生した。震災から四半世紀を経て、農地の防災利用が県内でようやく緒に就いた。(山路 進)
大阪(伊丹)空港近くの同市森本地区。ホウレンソウやトマトを栽培する阪部英夫さん(58)は2020年11月、保有する農地約4千平方メートルのうち、露地とビニールハウスが立つ計約1700平方メートルを防災協力農地に登録した。
00年に脱サラし、父親の農業を継いだ。農地は住宅地の中にあり、トラクターの音や砂ぼこり、肥料のにおいなど近隣には気を使う。震災では市内の自宅が半壊し、建て替えた。市から制度創設を聞き「地域の力になり、ハウスなら風雨もしのげる」と名乗りを上げた。
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26年前の阪神・淡路では避難所だけで30万人を超える人が身を寄せた。仕事や学校などの問題で地元を離れる被災者は少なく、遠方の仮設住宅への入居は進まなかった。避難所や公園のテント村での生活は長期化し、都市部の仮設住宅などの用地不足は大きな課題となった。
国の制度ではないが、農林水産省によると、首都、中京、関西の三大都市圏の74市区町(19年3月時点)に制度がある。空き地が少ない都市部で農地は貴重な空間。登録農地を避難場所や災害対応車の駐車場、資材置き場に応急活用することを想定する。
国は15年、都市農業振興基本法を施行し、都市農地を作物の供給だけでなく、防災面でも維持すべき場所と再定義した。兵庫県も16年に策定した都市農業振興基本計画で防災活用の推進を掲げたが、協力農地は制度化されてこなかった。
協力農地に詳しい都市農地活用支援センター主任研究員の小谷俊哉さん(55)は「阪神・淡路を経験した兵庫県では、補償などが膨大になることを恐れ、制度化が遅れたのではないか」と指摘する。
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伊丹市は、17年3月に策定した都市農業の計画を機に協力農地の制度化に取りかかった。課題は、農家への補償。緊急避難先になると作物が踏み荒らされる恐れがあり、避難場所としての活用は避けた。その上で、仮設住宅▽復旧資材置き場▽復旧車両の駐車・ボランティア受け入れなどの多目的用地-の三つに限定した。
活用時の農地の税免除や使用料の支払い、収入見込み額の補償、原状回復後の返還を明記した。同市危機管理室は「大災害で避難所に想定する公園や学校が使えない恐れもあり、補完的に使える」と強調する。
約600戸の農地がある同市では現在、阪部さんを含め2戸の農家が計約2400平方メートルを登録する。阪神・淡路は建物の倒壊だけでなく、火災による被害も甚大だった。延焼を防ぐ緩衝帯にもなり、市は登録数の拡大を図る。市の担当者は「季節によって使えない農地もあり、多い方がいい。市内の半分の登録を目指したい」と話す。
一方、課題もある。阪神・淡路の翌年に地元農協と協定を結んだ東京都練馬区は、農地の名簿が25年前から更新されていない。区の担当者は「代替わりなどで所有者が変わり、今のままでは役に立たない」とし、協定再締結を協議中という。
制度を使うような都市での大災害はまだ起きていないが、都市農地活用支援センターの小谷さんは「協力を得られる土地がリスト化できる意義は大きい。日頃から農家と住民、行政が連携し、万一の際の協力関係を築くことが重要だ」と話した。
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