記事特集
阪神・淡路大震災で長女の聡子(さとこ)さん=当時(31)=を亡くした兵庫県芦屋市の猪木より子さん(84)の自宅には、2台の大きなピアノがある。ピアノ講師だった聡子さんが愛したピアノは26年たった今も、当時と変わらない音色を響かせる。「娘との思い出が詰まったピアノだから、できるだけ長くそばに置いておきたいんです」(名倉あかり)
近所の子どもたちにピアノを教えていたより子さんの影響で、聡子さんは3歳からピアノを習い始めた。東京音楽大学を卒業して神戸大学大学院へ進み、音楽教育を学んだ。
東京で下宿する聡子さんに、より子さんは毎朝「モーニングコール」をしたが、心配事はあえて何も言わなかった。聡子さんは「信頼して上京させてくれたんやね」と喜び、その言葉が何よりもうれしかった。
芦屋市の実家に戻り、武庫川女子大学と神戸親和女子大学の二つの大学に非常勤のピアノ講師として勤めた。「同僚にも恵まれ、人の2倍、経験をさせてもらった」とより子さんはほほ笑む。
「じゃあ明日ね」-。就寝前の会話を最後に、聡子さんは帰らぬ人となった。一家4人で暮らしていた自宅は震災で全壊し、聡子さんは即死。運び出された遺体は眠ったように穏やかな表情で「けがをして苦しい思いをするよりは、よかった」とより子さんは自身に言い聞かせた。
聡子さんがレッスンで使っていたグランドピアノ「スタインウェイ」2台も脚が折れるなどの被害を受けた。聡子さんに「いい音で練習させたい」と、小学生と大学生の時にそれぞれ購入したものだ。
震災直後は処分を考えた。しかし、友人に「聡子さんが弾いていた大事なピアノなんだから」と諭され、修理に出した。
「うれしい半面、これを弾く娘はもういないんだと実感した」。きれいになって自宅へ戻ってきたピアノを見ると、割り切れない思いが込み上げた。
いつも音楽仲間に囲まれていた聡子さん。震災1年後には大学時代の友人らによる追悼コンサートが企画され、2000年には同級生や教授らのコメントを集めた「追悼文集」が発行された。友人のピアニストが自宅のピアノを弾きに訪れ、思い出話を聞かせてくれたこともあった。
毎年1月17日が迫ると、ビデオに収めた聡子さんの演奏会の映像を見返していたが、最近は見るのをやめた。「『生きていたら』と想像し、悲しくて涙が流れてしまうんです」
聡子さんは学生時代、ピアノだけでなく琴やフルートなど、何でも積極的に挑戦した。より子さんも「頑張り屋の娘のぶんまで」と、40年以上、更生保護施設にいる子どもたちの教育支援などを行うボランティア活動に携わる。
聡子さんの演奏が大好きだった夫、一成さんは19年、急性心不全を発症して88歳で亡くなった。「未来は何が起こるか分からない。命を大切に、一日一日を精いっぱい生きたい」と前を向く。「今日も一日頑張るから、見守っていてね」。心の中の娘にそっと語り掛けた。
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