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■伊東弁護士、佐藤弁護士

 事故の起こった年の12月、遺族との学習会に参加(中略)夕食後の団らんのとき、遺族の一人が近づいて「連れて行った親が悪いなんて思っているなら、この場から今すぐ出て行ってくれ」と言われたことは衝撃的でした。(伊東香保弁護士)

 大阪高検のある検事の発言が問題の本質を明らかにしているように思われた。それは「遺族の皆さん、地域官は警視なんです。警察組織のいわば幹部です。その警視を起訴するのはたいへんなことなのです」という言葉であった。(佐藤健宗弁護士)

=いずれも書籍から抜粋

 「子どもを連れて行った親の責任」。世間の一部から上がった声がどれほど遺族を苦しめていたかを、伊東香保弁護士(76)=神戸市中央区=は早々に痛感した。

 多くの夜店が並ぶ花火大会。そもそも子どものために用意された場所なのに、なぜ連れて行った親が責められるのか。その見当違いの認識を覆すことが、当初から弁護団6人に通底する使命の一つだった。

 伊東弁護士が今回、書籍の中で原稿作成を担った第1章第1節「あの日歩道橋に向かった人達」は、事故数日前の遺族家庭の何げない描写から始まる。「いかに日常生活の楽しみに起こった事故だったかを実感してもらいたかった」と力を込める。

 原資料は、生々しい記憶が残るうちに民事裁判向けに記されていたもの。歩道橋上の様子がそれぞれの遺族の位置・視点から時系列で短文を連ねるように編まれ、映像を見ているかのようだ。

 「あの日起こった客観的事実を記録として残したかった。橋に入ったら、もう逃げる道がなかったことを理解できるはずだ」

    □

 「再発防止と責任追及のあり方はどうあるべきか。この本で問うたつもり」。弁護団事務局長を務めた佐藤健宗弁護士(64)=明石市=は強調した。

 書籍では、①人②設備③環境④管理-の観点から事故要因を書き出す手法「4M分析マトリクス」によってまとめた。橋に雑踏警備を目的とする要員配置がなかった、橋とつながる階段の横幅が橋上の半分しかないボトルネック構造、アクセスが悪く橋に人が集中しやすい会場、橋のすぐ下から並んだ夜店の位置…。

 「事故は一つの原因で起きるわけではなく、いろんな段階を踏み、人的な要因が重なり、予期しない事故につながっていく」

 しかし刑事裁判は、当日の「直近の過失」に焦点を当てる検察に阻まれた。現場責任者だった明石警察署の地域官(警視)、警備会社の担当者、主催した市の職員ら5人は有罪となったが、同署署長、副署長は不起訴に。神戸検察審査会が3度「起訴相当」としたが神戸地検は4度不起訴とした。2010年には改正検察審査会法の下、副署長が全国で初めて強制起訴された(署長は07年に死亡)が、神戸地裁は時効による免訴を言い渡し、16年に確定した。

 「過失は明白だったが、検察は『計画段階の過失』を問わなかった。事前に問題があっても、現場でしっかり対応すれば事故との因果関係は切れるという考え」と佐藤弁護士。しかし、その後も繰り返される重大事故。それでも検察は変わらないのか。

 「当分このままでしょう。直近の過失に絞っている限り、無責任社会は続く。この事故は、まだ終わっていない」(松本寿美子)=おわり

 ◇本「明石歩道橋事故 再発防止を願って~隠された真相 諦めなかった遺族たちと弁護団の闘いの記録」の問い合わせは神戸新聞総合出版センターTEL078・362・7138(平日午前9時半~午後5時半)

【バックナンバー】
(4)現場、ずっと通い続ける
(3)悲しい手記にはしない
(2)心ない言葉に苦しんだ
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