「さらりとした梅酒」のCMの一場面。チョーヤ梅酒(大阪府羽曳野市)のホームページから
「さらりとした梅酒」のCMの一場面。チョーヤ梅酒(大阪府羽曳野市)のホームページから

 「♪さ~らりとした梅酒」「♪サカイぃ~安いぃ~仕事きっちり!」。一度聞いたら耳から離れない。数々のCMソングを世に送り出してきた鬼才、杜若(かきつばた)清司さん(55)=京都市=は「CMは大衆文化の結晶だ」と話す。手がけた曲は数百曲に上り、7月2日には「自身の総決算」と位置づけるCM音楽のみのチャリティーコンサートを開く。(前川茂之)

 「You wanna 酔わないウメッシュ~♪」

 「家電のこっとな~ら、エッッディオン♪」

 さらに神戸新聞社のCMも。「♪もっ~と一緒に、もっ~と一緒に」

 声に出さなくとも心の中で自然と歌詞に節が付く。いずれも、杜若さんが手がけた作品だ。

 「日本全国、津々浦々まで歌ってもらえる曲作りが目標」と話す杜若さん。初めてCMソングを作ったのは27歳の時。ディレクター志望で入社したCM制作会社だったが、制作中の音楽に次から次に口を挟むので「だったらお前、作ってみろ」と命じられた。

 そうしてできた30~40曲の候補曲の中から、1曲を絞り込む。選ばれた曲は「♪ゴン、ゴン、ゴン太のササミジャ~キー」。

 「人は粗削りで、プリミティブなものにひっかかりを覚える。完全じゃないことが重要なんです。毎日、不確定の味の揺らぎがあるおかんのみそ汁みたいに」

 ゴン太のササミジャーキーは評判を呼び、「サトウのごはん」など次々に仕事が舞い込んだ。

 曲作りに楽器は「手癖に沿った曲にしかならないから」と使わない。

 まずは企業が求めるイメージ、商品のコンセプト、株価や社風に至るまで情報を集め、頭にたたき込む。そして、いったん寝かせる。

 しばらくすると「スポンっと出てくるんです。何の予兆もなく」。名曲の数々はこうして生まれてきた。

 杜若さんは「CM音楽は時代を映し出す無形文化財だ」と言う。旬のタレントが出演し、自社の商品の素晴らしさを宣伝する。その中には時代の社会不安や景気状況、伝統文化までも折り込まれている気がするのだと。

 そして「インパクトを重視し過ぎると、1回見たら飽きられて、クレームに変わることもある。ボディーブローのように効いてくるのがいいCMソング」。

 7月2日午後6時から、京都府立府民ホールアルティ(京都市上京区)で開くコンサート「CM音楽の世界」は、日本を代表する演奏家たちによるフルオーケストラで予定している。

 15秒で終わる曲もあれば、この日のために続きを作曲した曲も。作曲の裏話も披露し、「いつもは脇役に徹している音楽だけど、こんなにすごいねんで、ということも感じてもらえれば」と話している。

 前売り3500円。当日4千円。詳細は杜若さんのホームページで。