阪神

  • 印刷
花川克彦さん
拡大
花川克彦さん
石原郁子さん
拡大
石原郁子さん

■災害時、地域の情報こそ大切

 広報車で呼び掛け、避難所の掲示板に張り紙をして回る。やってもやっても、追い付かない。兵庫県伊丹市職員の花川克彦(78)は、生活情報を伝達する手段の乏しさに無力感すら覚えた。その後、コミュニティーFM「エフエムいたみ」の設立に奔走。しかしその産声を聞く直前、病のため身を引く。ただ、その志は、市民のボランティアスタッフや若手職員らに、今も確実に引き継がれている。

    ◇    ◇

 ドォ、ドォ、ドォーン…。「じ、地震や!」。娘の悲鳴が聞こえた-。

 26年前、伊丹市市民対話室長だった花川克彦は真っ暗な自宅で途方に暮れていた。ピアノは右から左へ移動し、割れたガラスや食器で足の踏み場もない。しばらくして電話が鳴った。「早く出勤してください」。職場からだった。身動きが取れない状態だったが「すぐ出掛けます」と言って電話を切った。

 職場へたどり着いたのは昼ごろ。つぶれた阪急伊丹駅がテレビに映った。しかしラジオを聞いても断片的な情報で、市内の様子はほとんどつかめなかった。

 給水場所を知らせようと広報車で巡回し、避難所の掲示板に紙を貼りだしたが、時間がかかる上、多くの人に伝わらない。「放送で情報を伝えられたら」。コミュニティー放送局を望む声が上がった。

 1996年4月、花川を中心に、開局へ向けて資金集めなどが始まった。8月に「伊丹コミュニティ放送株式会社」が誕生し、9月、花川は初代局長に就いた。しかし、がん闘病のため、12月21日の本放送開始を待つことなく、わずか2カ月で退くことになった。

 それでも、生みの親が残した志は、放送局に脈々と根付いている。「災害時に最も伝わるのがラジオ。地域の情報こそ大切だ」。その一端を担うのが、開局当初から関わるボランティア「市民スタッフ」だ。

    ◇    ◇

 地域密着の放送局として募集した「市民スタッフ」に市内外から100人以上が集まった。全員が市民スタッフに登録し、リポーターのみならず、情報提供や取材活動にも携わった。

 「みんな最初からできるわけがない。ものすごく勉強したのよ」と話すのは市民スタッフ代表の石原郁子。公立の幼稚園長を務めていたときに声を掛けられ、以来、「エフエムいたみ」のパーソナリティーを務める。

 言葉の使い方だけでなく、地域を歩き、地元の人から歴史を聞いて知識を蓄えた。市からは防災・安全に関することやイベント情報、市民スタッフからは地域の話題が集まり、いつしか「エフエムいたみ」は「地域情報の要」となっていった。

 新型コロナウイルス感染症が拡大した2020年は、地元の行事や催しが軒並みなくなった。今年の阪神・淡路大震災関連の催しも中止や規模縮小になる。

 「それでも」と、職員の浜脇歩未(35)が言う。震災モニュメントを巡る特別番組を制作した。「私の世代でも記憶は薄い。思い出すのが嫌な人もいるかもしれない。でも、知らない世代に知ってもらうことが大切」。そこには、震災を機に生まれた放送局の誇りがあり、受け継いでいく意志がある。(敬称略)(中川 恵)

【エフエムいたみ】阪神・淡路大震災を機に「全ての市民にいち早く必要な情報を伝える」ことを目指し、1996年に伊丹コミュニティ放送株式会社が設立された。2018年からは、現在の「伊丹まち未来株式会社」が経営する。周波数は79.4メガヘルツ。スタジオは伊丹商工プラザにあり、主な聴取エリアは伊丹市を中心に尼崎市、宝塚市、川西市など。

阪神
阪神の最新
もっと見る

天気(3月3日)

  • 12℃
  • ---℃
  • 0%

  • 9℃
  • ---℃
  • 0%

  • 12℃
  • ---℃
  • 0%

  • 11℃
  • ---℃
  • 0%

お知らせ