コロナ禍で外出がはばかられ、恋愛や結婚に向けた出会いの場は減ったのか。兵庫県尼崎市を拠点とする婚活アイドルの「きっしー」は、これまで婚活イベントに８０回以上参加し、自身で企画もしながら、地域の催しで歌ったり踊ったりしてきた。ファンの応援を受けながら「恋人ができれば活動休止。結婚なら引退」という目標へ突き進む彼女に、もうすぐ３０歳の独身男性記者が聞いてみた。（大田将之）

　－キャッチフレーズは「１００万ラブのほほ笑み」。セルフプロデュースでアイドル活動と婚活を続けてきた。

　「私にとって結婚は、普通のアイドルでいう武道館ライブのようなもの。ただ、この１年はほとんど男性と会えずです。外出を自粛せざるを得ない中、ずっと葛藤がありました。『私の婚活は不要不急なのかな、いやいや、そんなことはない』って」

　「できたことと言えば、スマホなどのアプリ上で出会うマッチングアプリを使って『コロナ禍が収束したら会いましょう』という相手を増やし、きっかけづくりをするくらい。ただ、アプリで会う約束をしても『コロナ禍のせいで結局会えない』と嘆く婚活仲間もいます」

　－顔写真やプロフィルを載せ、メッセージのやり取りができるマッチングアプリが普及した。オンラインでの恋愛や婚活に抵抗がなくなってきている気がする。

　「最初の緊急事態宣言が出たころからビデオ通話を使った婚活イベントも増えてきました。でも、私は未経験です。一度は応募したのですが中止になって。やっぱり私は実際に会ってお話して、フィーリングも含めて人となりを判断したいなって思います」

　－２０１９年５月、尼崎市内の銭湯で開かれたのど自慢イベントでアイドルデビューした。

　「これまで市内の市場や銭湯などでイベントに出演させてもらったけれど、コロナ禍でほとんどなくなりました。ただ、オンラインの有効性に気付くこともできた。（音声限定でやりとりする招待制アプリ）『クラブハウス』を使って男性とお話したり、結婚観や恋愛観を語り合ったりし、ラジオＤＪからレシピを教わる料理企画もやってます」

　「アイドル活動のおかげで『婚活をやっているよ』って発信できる。尼崎は私の存在を『おもしろい』と受け入れてくれる、懐の深い町です。おかげで明るく婚活ができています」

　－私も独身恋人なしの１人暮らしだが、１人で家にいると孤独を感じる瞬間がある。コロナ禍にはその回数が増えた。

　「自宅にいる時間が長い分、恋人ができたときの愛の育み方は妄想しますよね。お互いの部屋でビデオ通話をしながら同じタイミングで映画を再生して、同じお菓子を食べて映画館でのデート気分を味わうとか」

　「３０歳を過ぎて婚活を始めましたが、やってもやってもうまくいかなくて、その繰り返しに疲れちゃって…。だから私は『いつまでに結婚』という締め切りはつくらない。ふと周りを見渡して、婚活を隠したり、恥ずかしがったりする人が気になったんです。人に言えないと１人で抱え込んじゃう。自分から『婚活してます』と発信できれば楽になるだろうと思って、アイドルになりました」

　「やっぱり、友人がどんどん結婚して、取り残されているような気持ちにはなります。でも、苦しくならないよう、自分なりの方法やペースを見つけられると良いと思う。私の場合はそれが『婚活アイドルきっしー』なんですよね」

　仕事は大阪市内のデザイン会社の事務職。年齢は「秘密」。連絡先やプロフィル付きのブロマイドは尼崎市の杭瀬中市場にある「喫茶Ｓｈｉ－ｏｎｅ」（杭瀬本町１）で購入できる。

【メモ】オンライン上での婚活や恋愛が活発化している。

　リクルートブライダル総研の「婚活実態調査２０２０」によると、２０１９年に（１）「結婚相談所」（２）オンラインなどの「ネット系婚活サービス」（３）対面型の「婚活パーティー・イベント」－の三大サービスを通じて結婚した人は過去最多の１３％に上り、１０年前の約５倍に増加。このうち６・３％がネット系サービスを使っており、１０年前の６倍となって相談所やパーティーを上回っている。

　また、全国約２７００の結婚相談所が加盟する「ＩＢＪ（日本結婚相談所連盟）」によると、月別のお見合い成立件数はコロナ禍の２０年８月に４万件を突破し、１０月には過去最高の４万２６８０件に達した。コロナ禍で気軽にできる「オンラインお見合い」が普及し、県境をまたいだ出会いが広がり、若者の入会が増えるなどしたことが背景にあるとみられる。

　兵庫県も２０年８月にスマートフォンでお見合い相手を選べるシステム「スマホ婚活」を導入するなど本格的に婚活支援に乗り出している。