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(上)篠山城跡で出走前に記念撮影をする聖火ランナーたち=丹波篠山市(下右)上木由紀子さんと望愛さん、英明さん(提供)(下左)尼崎市の聖火リレーでゴールとなる予定だった尼崎城=尼崎市北城内
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(上)篠山城跡で出走前に記念撮影をする聖火ランナーたち=丹波篠山市(下右)上木由紀子さんと望愛さん、英明さん(提供)(下左)尼崎市の聖火リレーでゴールとなる予定だった尼崎城=尼崎市北城内

 ランナーたちが走らずに聖火をつなぐ。ゆらめく炎をテレビで見ながら、あの人の言葉を思い出した。

 「厳かっていう言葉がぴったりなんです。炎の外側がなぜかキラキラしてて、なんだか異世界みたいで」

 17日、ついに東京23区に入った聖火は緊急事態宣言の下、公道でのリレーを取りやめ、火を受け渡す「トーチキス」のみを無観客の会場で続けている。ステージで順番に2人が笑顔で撮影に応じるだけ。それでも火がともされた瞬間、ランナーたちは一様にハッとして、感じ入った目をする。

 電話越しにその感動を何とか表現しようとする兵庫県尼崎市の介護福祉士上木由紀子さん(52)も、亡き一人娘への思いを込めてランナーになった1人だ。

 「“五輪霧中”やなあ」

 職場で同僚が独り言を言っていた。確かに五輪はコロナ禍で先行きが見えない「五里霧中」状態にある。

 開幕間際になっても混乱が続く。選手や関係者の陽性判明は増えつつあり、開会式の曲を手掛けた音楽家は過去の障害者いじめを告白、謝罪して制作担当を辞退した。五輪反対の声も高まり、聖火ランナーに水鉄砲を放つ事件もあった。

 「どんな思いでいますか?」。上木さんに電話で聞くと、「ランナーが犯罪者であるかのように批判されているのを知って、胸が締め付けられる」とぽつり。

 2カ月前の5月、迷った末に聖火リレーに参加した。県内でも“感染第4波”で走れるのは姫路城や篠山城の中に限られ、1人の距離は20メートルだけとなった。アイドル「関ジャニ∞」の安田章大さんや落語家の笑福亭鶴瓶さんら有名人もドミノ倒しのように辞退した。

 心を決めたのは、テレビで見た芸人陣内智則さんの姿だった。笑顔で走り切るのを見て「出ることが悪いことじゃない。走ってもいいんだ」と吹っ切れた。

 当日、篠山城。雨の中でポケットに娘の写真を忍ばせた。ずっしりとしたトーチにともった炎を、心から美しいと思った。

 18年前、6回目の妊娠で産んだ望愛(のぞみ)さんは重度の障害で目も見えず、1人で動けない。周囲の献身的な介護で特別養護学校の生活を楽しみ、2016年10月、13歳でこの世を去った。

 ふさぎ込んだが、「次は助ける立場になりたい」と、望愛さんが世話になった介護事業所で働き始めた。

 人々の縁、命の尊さを娘が教えてくれた。「のんちゃん(望愛)と一緒に走る自分を知ってもらうことで、元気づけられる人がいるんじゃないか」。ランナーに志願したのはそんな思いからだ。

 「ファイト」「頑張れ」…。沿道に観客はいなくても、友人らの寄せ書きを前に走ることができた。今も事業所の子どもや家族がユニホームを見て「東京で走ってる服と同じや」と喜んでくれるのがうれしい。

 五輪の暗いニュースを知るたびに夫の英明さんと話す。「途切れないでほしい」「開幕しても無事に終わるかなあ…」

 さまざまな思いを乗せて聖火がつながる。コロナ禍で揺れる炎は、深い霧の中をどう照らすのか。(村上貴浩)

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