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「nuts」の日傘をさす藤村絵理香さん=尼崎市内
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「nuts」の日傘をさす藤村絵理香さん=尼崎市内
ビンテージ生地はアメリカやドイツのものが中心。素材選びは「ドキドキするかどうか」が基準=尼崎市内
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ビンテージ生地はアメリカやドイツのものが中心。素材選びは「ドキドキするかどうか」が基準=尼崎市内
木のぬくもりが感じられる持ち手。大きいポンポン飾りはタイの市場でしか仕入れられないという=尼崎市内
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木のぬくもりが感じられる持ち手。大きいポンポン飾りはタイの市場でしか仕入れられないという=尼崎市内
カラフルな日傘に囲まれる藤村さん=尼崎市内
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カラフルな日傘に囲まれる藤村さん=尼崎市内
ナッツのウェブサイトでは取扱店舗も紹介している。日傘は1本1万6千円(税抜き)から
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ナッツのウェブサイトでは取扱店舗も紹介している。日傘は1本1万6千円(税抜き)から

 カラフルな日傘が、真夏の日差しに映える。日ごとに暑さが増す中、兵庫県尼崎市の日傘ブランド「nuts」(ナッツ)で、出荷作業がピークを迎えている。海外のビンテージ生地を使い、商品のほとんどが一点物。一つ一つ手作りする“職人”は、生きづらさを抱えていた「ママさん」たちだ。

 日傘は夏に使うから、ナッツ。「元気がない女性に、日傘作りを通して元気になってもらいたい」と、代表の藤村絵理香さん(48)が2015年に立ち上げた。

 子育てや病気で悩み、家から出る気力も沸かず、働く元気もない…。そんな女性たちに、藤村さんが声を掛ける。

 当初は近所の「ママ友」と2人だけだったが、徐々に仲間を増やし、今は女性24人で傘を作る。尼崎市内のアトリエに加え、それぞれの自宅が作業場だ。

 「子どもと一緒に過ごしながら働けるように」と願ってノルマはなく、自分のペースで傘を作っていく。

 生地は、藤村さんが米国や欧州から仕入れ、それを手分けして裁断したり、骨組みに縫い付けたり、木の持ち手を加工したり。

 メンバーには、高校を卒業したばかりの少女(19)もいる。学校に行けず、引きこもりがちになる中、母親から「タダ働きでもいいので」と相談された。ミシンを覚え、できることが増えるにつれ、表情が明るくなっていった。

 「すごくかわいい女の子。コロナ禍が落ち着けば、ファッションショーのモデルもやってもらいたいな」

 設立以来、やめた人はいない。引きこもりや精神疾患、がん…。それぞれに生きづらさと向きあいながら傘作りを続けるうち、笑顔を取り戻していく。

 藤村さんは「最初はみんな元気になったら卒業してもらうつもりだったけど、居心地が良いと思ってもらえているのなら、すごくうれしい」とはにかむ。

 新型コロナ禍で販路は減ったものの、オンラインが好調で売り上げは伸びている。

 何が藤村さんを突き動かすのか。

 小学5年のとき、両親が離婚した。ある日、母は「バレーボールの試合に行く」と言って家に帰ってこなくなり、父は知らない女性と出て行った。

 藤村さんは、こんな風に思っていた。「私の人生は、ハズレだ」

    ◆

 祖父母に育ててもらった。勉強もクラブ活動も成績優秀。日暮れまで藻川沿いを走り、中学陸上部ではハードルで尼崎市の記録を塗り替えた。“良い子”でいられるように必死だった。

 「祖父母にまで捨てられるのが怖くて。うまく立ち回らないと、また捨てられるんじゃないかって」

 24歳で結婚。3人の子を授かり思った。「これで幸せになれる」。念願の家族…なのに、思い描いた子育てはできなかった。

 「実は私、育児ノイローゼやったんです」

 どんなに思いを巡らせても「母親像」が湧かない。子どもとどう向きあえばいいか分からない。相談できる人もいなくて、1人で子どもを抱いていた。周りのママには「実家のお母さん」がいるのに、自分にはいない。その差が、とてつもなく大きく感じられた。

 「なんで私だけ」

 転機は、家の近くであったフリーマーケットに出品したこと。お古の子ども服と一緒に、使わなくなった手作りのポーチを何気なく並べた。すると、女性客が「かわいい!」と目を輝かせて買ってくれた。

 うれしくて、フリーマーケットにあわせて小物を作り始めたら、常連客もできた。オーダーをもらい、手芸店で材料を探す。そんなやりとりに、重苦しい心のしこりがほぐれていった。

 「物作り。こんなにささいなことで元気になれるんだ」。ハンドクラフト作家が作った日傘を持っていた。黄色地に花柄。5千円もしたけれど、手作り市で一目ぼれして買った一点物。さして歩けば、100回以上「かわいいね」と声を掛けられた。これに着想を得てできたのが、ナッツだ。

 百貨店などの販売会場では、藤村さんとのおしゃべりを楽しみに、泊まりがけで遠方から足を運ぶ客もいる。周りの顔色ばかりうかがってきた経験も、接客では相手の気持ちをくみ取る力となって生きているように思う。

 目標はナッツの支部を各地につくることだ。「例えば地方のまちのお母さんがつくった日傘をニューヨークで売ることだってできる。自分と同じように生きづらさを抱える人は、どこにだっていると思うから」と目に力を宿し、言った。

 「今、私の人生はアタリだって思ってる」

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