鉛筆にボールペン、ノートにファイル…。文房具をこよなく愛し、開発のルーツや機能美を熟知する男性が兵庫県尼崎市にいる。阪神尼崎駅近くの文具店「本田盛文堂尼崎」(同市御園町)に勤める業界歴43年の官浪伸次さん(65)。コロナ禍で生まれた時間を使い、124種の文房具の魅力を詰め込んだ自作のガイド本2冊を発行した。「たかが文房具、されど文房具。その奥深さにきっと魅了されるはず」とほほ笑む。(竹本拓也)
ガイド本「ぶんぼうぐ温故知新」はA5判各63ページ。1ページにつき1アイテムを載せ、自身の思い出や、開発秘話を交えた文を添える。
素材は、自身が10年余り書きためてきた「ネタ帳」だ。仕事中、鉛筆でイラストを描き、メーカー担当者とのやり取りやデザインの特長、CMのフレーズも細かくメモしてきた。
これまで月1回、文房具の雑学ニュースを発行し、市民向けの「文具塾」も開いてきた。それでも「秘密にしてきたこともある。今回は惜しげもなく出した」といたずらっぽく笑う。
◇ ◇
例えば、使い切り油性ボールペン「オレンジEG」。このペン軸は誰でも一度は見たことがあるだろう。
フランスの筆記具メーカーが1961年に発売し、優れたデザイン性と機能性で大ヒット商品となったが、ガイド本ではこう記す。
「世界の愛用者に惜しまれながらも製造中止となりました。残念ですね(泣)」。今年ついに廃盤が決まったと明かし、素直な思いをつづった。
今年の最新文具も取り上げ、車を前後に走らせるだけで鉛筆が削れる「ハシレ! エンピツケズリ!」には「遊びながら学べるまさに新感覚」と大絶賛する。
手の力で回して削る従来の手動鉛筆削りが「重くて難しい」と感じる子どもが多く、その欠点を改善するために開発されたという。
ロングセラー商品の開発秘話も。中でも75年発売の液体のり「アラビックヤマト」は滑らかで均一な塗り味が秀逸だ。実は当初、キャップ部分にスポンジが検討されたが、実験を重ねた結果、網状の「ざる」にたどり着いたという。
◇ ◇
大学生だった72年に発売された電卓「カシオミニ」に感銘を受け、文房具の世界へ。卸会社、店舗勤務、販売店経営を経て、4年前から本田盛文堂尼崎に勤める。
文房具を多角的に眺め、絵に描くことで少しずつ気付くという。
「ギザギザや凹凸にどういう意図があるのか。なぜ途中から細いのか。そういうことを尋ねると、メーカーに喜ばれるんです」
一つ一つを見るほどに、人の身体になじませる工夫は「細部」に宿っている。
ガイド本は裁断や穴開け、リング製本まで全て手作業で仕上げた。今年5月に第1巻を発行して終わる予定だったが反響が大きく、8月末に続編を出した。
各巻600円(税込み)。同店の店頭かホームページから購入できる。同店TEL06・6412・1547
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