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開業当初から残る唐破風屋根。奥には高さ25メートルの煙突がのぞく=第一敷島湯
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開業当初から残る唐破風屋根。奥には高さ25メートルの煙突がのぞく=第一敷島湯
タイルの壁絵が目を引く浴場=第一敷島湯
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タイルの壁絵が目を引く浴場=第一敷島湯
番台に座る黒木功子さん(左)と久美子さん=第一敷島湯
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番台に座る黒木功子さん(左)と久美子さん=第一敷島湯
女性用脱衣所で現役のドライヤー。頭をすっぽり覆って頭髪を乾かす=第一敷島湯
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女性用脱衣所で現役のドライヤー。頭をすっぽり覆って頭髪を乾かす=第一敷島湯
第一敷島湯にサウナはないけど「さうなさいこう」の文字。銭湯グッズのウェブサイトという。ほかにもユニークな広告が浴場に並ぶ=第一敷島湯
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第一敷島湯にサウナはないけど「さうなさいこう」の文字。銭湯グッズのウェブサイトという。ほかにもユニークな広告が浴場に並ぶ=第一敷島湯

 兵庫県尼崎市杭瀬本町1の銭湯「第一敷島湯」が来年、創業100周年を迎える。終戦直後も阪神・淡路大震災のときも湯を沸かし、人々の汗を流し続けてきた。公衆浴場として暮らしを支えて一世紀、その歩みをたどる。(大田将之)

 下町の空に顔を出す、すすけた煙突が目印。創業時から残る唐破風(からはふ)屋根やタイルで描かれた壁絵、まきで沸かしたお湯、ローラーがむき出しのあんま機…。のれんをくぐれば、古き良き時代の情景が広がる。

 大女将の黒木功子(いさこ)さん(87)、次男達也さん(56)、その妻久美子さん(50)の3人で切り盛りする。孫で大学生の雅也さん(21)もときどき番台に座る。

 1923(大正12)年に建てられ、戦後間もない46年に達也さんの祖父である先々代が買い取って営業を引き継いだ。ただ、歴史が古すぎて正確な日付は分からないという。だから、1月1日を「誕生日」ということにしているらしい。

 一般家庭に風呂がなかったころ、泥まみれの労働者や子どもたちで繁盛した。

 「まさに芋の子を洗うくらい。女中さんも3人いて、脱衣所で子どもの着替えを手伝ってたって」。久美子さんが親族から聞いたエピソードを教えてくれた。

 釜場で湯を沸かす「釜焚(かまた)きさん」もいた。湯がぬるくなるとまきを投入。当時は自動で温度調節なんてできなかったが、熱くなりすぎても大丈夫だった。

 「お客さんが自分たちで水を足して、心地よい温度にしてくれたんです。同時に汚れたお湯もきれいになるので」。まきは大八車を引いて大阪などに取りに行ったという。

    ◇

 功子さんは、毎日開店から午後6時まで番台に座り、柔和な笑顔で客を迎える。「お客が間違えて他の客の服を着て帰ろうとしたことがあってね。うちを出る前に気付いてよかったねえ」。思い出話を尋ねると、珍事件を懐かしそうに振り返った。

 続いて「どんどん減ってるね。お客さん」とぽつり。脱衣所の隅に目をやると、棚に“常連客”らの洗面具が積まれている。

 「もう何年も顔を見てない人のやつもあるんやけど、捨てるに捨てられへんしね。元気にしてたらいいけどね」

 かつては家族連れが訪れ、その子どもや孫が大人になって、また家族を連れてきた。家庭に風呂が普及して久しく、町には娯楽施設も備えた「スーパー銭湯」が増える中、そんな光景はほとんど見られなくなった。客層は多くが高齢者で、毎日来ていた常連客も新型コロナウイルス禍の外出自粛で顔を見る日が減った。

 それでも、足を運んでもらうきっかけをつくろうと試行錯誤を続ける。お笑いライブやフリーマーケット、落語会やヨガ教室…。レトロな空間で多様なイベントを打ち出してきた。今は100周年へ向けてタオルやTシャツなどのグッズを作りつつ、記念事業の構想を練っている。10月10日の「銭湯の日」には、新たなのれんもお披露目する。

 久美子さんは「若い人は銭湯に壁を感じるのかもと思って。常連客にいじめられるんじゃないかとか、怖い大将がいるんじゃないかとか」と冗談を交えつつ「そんなイメージがあったらのれんをくぐりにくいだろうなって」と意図を語る。

    ◇

 1995年、震災が起きた。めちゃくちゃになった町に、居ても立ってもいられなくなった達也さんは、先代の父に「ボランティアに行きたい」と申し出たという。返ってきたのは、こんな答え。

 「うちが湯を沸かし続けることがボランティアになるんや」。銭湯は壁にひびが入ったものの営業を続けることができ、多くの被災者が心身の疲れを癒やしに訪れた。

 正直、厳しい経営が続く。それでも達也さんは父の言葉を心に留め、毎日釜場でまきをくべる。

 2018年の台風21号では、貯水槽のパイプがへし折れて釜場の屋根も吹き飛び、2週間の休業を強いられた。そんな危機も、近くの住民や常連客、なじみの業者たちに助けられた。がれきの撤去を手伝ってくれ、雨をしのげるよう屋根をブルーシートで覆ってくれた。

 「こんなに長く続けられているのは、たくさんの支えのおかげ」と久美子さん。「どこの銭湯もきっとぎりぎりで踏ん張っている。それでも憩いの場であり、災害時には大切な場所。そんな銭湯を何とか守り続けたい」と前を向く。

 午後2時40分~午後11時。火曜休み。中学生以上400円、子ども160円、乳幼児60円。第一敷島湯TEL06・6481・7120

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