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店から漏れるネオン。この光景はもうない=3月5日午後、尼崎市神田南通3(画像の一部を加工しています)
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店から漏れるネオン。この光景はもうない=3月5日午後、尼崎市神田南通3(画像の一部を加工しています)
「いらっしゃいませ」。客の来なくなった入り口で、ぼんやりと光る看板=11月5日夜
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「いらっしゃいませ」。客の来なくなった入り口で、ぼんやりと光る看板=11月5日夜
尼崎市長と尼崎南署長の連名で出された警告書の写し
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尼崎市長と尼崎南署長の連名で出された警告書の写し

 通称、かんなみ新地。

 兵庫県尼崎市の阪神電鉄出屋敷駅から北へ歩いて10分足らず。2、3階建ての木造建築が並ぶ一角は先月まで、夕暮れになると異世界のように妖しい空気を放っていた。

 30店ほどの扉が次々に開き、ピンク色のネオンが暗い路地ににじみだす。香水の甘い匂いが漂ってくる。光の中の若い女性にほほえみかけられ、中高年の女性に手招きされながら男性客が吸い込まれていった。

 店を切り盛りする「ママさん」、店先で客を呼び込む「引き子さん」、そして店の中で客と対面する「女の子」…。

 そう呼び分けされる彼女たちのなりわいは、飲食店で従業員と客が恋に落ちて体を重ねる-という建前の下、終戦直後から約70年もの間、社会で「暗黙の了解」とされてきた。

 その「色街」に今月1日、1枚の文書が突き付けられた。ついこの間まであった光景が突然、尼崎から消えたのはなぜか。

     ◆

 1日昼ごろ、阪神尼崎駅前にある中央地域振興センターの会議室。

 「かんなみ新地組合」の代表として何の前触れもなく呼び出された女性は1枚の紙を差し出され、尼崎市職員と県警尼崎南署員に淡々と告げられた。

 「そういうことなので」

 紙は「警告書」の3文字に、市長と署長の公印が押されている。

 飲食店の形態をとりながら、店の実態は女性による性的サービスの提供という情報を得ている-。そう切り出し、店がある場所は性風俗店の営業が禁止されている地域であると指摘している。

 さらに、地元から「生活環境が悪化している」との声が寄せられているとたたみかけ、書きぶりはやんわりとこう結んだ。

 「違法な営業をしているのであれば、直ちに中止するよう警告いたします」

     ◆

 「女の子と引き子さんの出勤を全て止めてください。詳しいことは店で説明します」

 午後3時ごろ、ママさんたちのLINE(ライン)に招集連絡が入った。数時間後に集まると、組合代表の女性が告げた。

 「今日行って、今日の話なんやけど、もう一切営業はできません」

 たった10行余りの文書は「もう黙認はしない」という当局からの意思表示でもあった。続ければ、風営法違反で摘発されかねない。

 「純然たる飲食店であれば構わないということ。ただ、こそっとでも風俗営業をしたらそれもできなくなる。絶対に、そんなことはしないように」

 即決せざるを得なかった。

     ◆

 あるママさんは戸惑いを隠せなかった。

 「あまりに突然のことで。てんやわんやで…」

 組合から事情を聞かされた後、引き子さんや女の子たち一人一人に電話をかけて説明した。電話越しに、震える涙声を聞いた。

 「生活の源がストップするんやもん。すぐにどこでも働けるような、勇気のある子ばっかりじゃないですからね。うちらもそうですけど、ぎりぎりの生活をしていて…」。あの日から数日、頭が真っ白になって何も手に付かなかった。

 17日までに店の備品が外に運び出され、山積みの粗大ごみとして回収された。

 「もう、ほんまに終わり」。空っぽになっていく店を眺め、一人のママさんが絞り出すように言った。

 「なんかね、悔しさもあるけど」「こう、むなしくなるね」「私らの商売って、こんなもんなんかなあって」(大田将之)

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